第6話



 巨大なクジラの死骸を見ながら、俺はあることを思いついた。


「よし、試しに作ってみるか」

「何をだ」

「まぁ見ていろ」


 クジラから肋骨を複数取り出す。取り出した肋骨は適当に洗う。かなり大変な作業だが、木がない以上こいつを使うしかない。


 加工には包丁が役に立つ。想像以上の斬れ味である。


「使ってくれるのは別に構わんが、何を作ってるのかは知りたい」

「上手くいかなかったらゴミだが…逆に成功したら邪神でも驚くかもな」

「どういうことだ?」

「邪神には投石が十分効果あったんだよ」

「あったな」

「つまりだ、複数相手にするとしたら…離れた所から効率的に発射したらいい。石を」


 俺はカタパルトを作ろうと思ったのだ。雑魚邪神専用かもしれないが、離れた所から石が飛んで来たら流石に驚くのではなかろうか。


「それにしてもなんで誰もやらなかったんだ?近づいたら恐怖するのなら遠隔攻撃すればいいだろ」

「遠隔攻撃というのはどの程度を想定している?」

「100メートルとか。メートルってわかるか?」

「……うむ、理解した」


 理解した?どういうことだよおい。そういえば俺はこの包丁がどういう存在かを把握していない。まさかこいつ。


「……おまえ心読むなよ」

「そこまできっちりは読めないから安心しろ。長さだってのはわかった。……そのくらいの距離ではムリだな」


 ダメか。まぁそうだろうな。もしダメじゃなかったら試しているはずだ。カタパルトなどは比較的簡単な構造だからな。


 それにしても厄介な連中だな、邪神というのは。どちらかというと俺自身が、ヤツらの厄介さを理解できないという問題もあるが。


 朝倒したエビを昼食にしつつ、半日がかりでカタパルトを完成させた。クジラのヒゲとクジラの骨から出来た移動式カタパルトである。


「そうだ、周囲に邪神はいないか?」

「いないぞ」

「そうか。なら試してみるか」


 手頃な石を頭骨で作った受け皿に載せる。クジラのヒゲの弾力を利用して石を飛ばす!成功だ!30メートルくらいは飛んでいる。この仕組みなら上手くすれば…


「よし!上手く出来たな!」

「しかしこれでは残念だが、邪神を倒すのはムリだ」

「いや、これで十分だ」

「相変わらずおまえの考えがわからん」

「心読めるくせに」

「読めても理解できない」


 クジラカタパルトと人類の至宝「なべ」を背負って、邪神が群れているところを探す。


「いた。四体だ」

「新兵器の試射にはちょうどいいな」


 岩陰から近づく。邪神はまだこちらに気がついていないようだ。今度の邪神はクラゲのような外見をしている。


「クラゲか……エチゼンクラゲかな」

「その辺りはよくわからないが……まさかおまえ」

「まぁまずはカタパルトの試射……おい」


 俺は絶句してしまった。クラゲが、人間を、食べている。人間の方は瞳孔が開いて意識もないように見える。糸の切れた操り人形のようだ。生きているのか死んでいるのかも定かではない。


「……普通の人間と邪神の関係はこういうものだ」


 俺はふつふつと怒りが湧いてくる。何故、人間が邪神クラゲごときに食いものにされなければならないのか?


「ふ、ざ、け、ん、なよ」


 カタパルトをセットする。先程のテストからしたら射程はこの程度だ。あとは石をセットして…


 セットが終わると同時に俺はクラゲ邪神の方に駆け出した。カタパルトから石が発射される。邪神の近くに当たった。邪神は驚き戸惑っている。それはそうだろう。人間もいないのに石が飛んでくるのだからな。


 邪神がこちらに気がついた時には、俺は袈裟懸けに邪神を切り裂いていた。


「一体」


 他の邪神もこちらに来る。人間を捕食している邪神もだ。向かって来る邪神に石が飛んで来た!今度は当たった!


 戸惑っている邪神を続けざまに切り裂く。クラゲなので動きは早くはない。あっという間に残りは人間を捕食している邪神のみとなった。


 3発目の投石が邪神を襲う。中の人に当たったようだ、すまん。生きていたら謝罪しよう。


「上手く、斬らせてもらう!」


 中の人に当たらないように邪神を斬る。上手くいったようだ。中から人が出て来た。まだ消化はされる前だったようである。初めて会った人間だ。生きていてくれたら……どうやら生きている。呼吸もしている。男のようであるが……。


 男を横にすると、俺はクラゲの解体を始めた。クラゲは塩もみをしたいところだが、海水でぬめりを取るしかないな、今のところは。


「……結局食うのかこいつらも」


 包丁はクラゲの解体に使わせてもらう。ブツブツ文句を言っているが、君の本来の仕事はそれではないのか?仕事はきちんとしような。


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