その病気、どんな気持ち?どんな症状?ねぇねぇ!

ちびまるフォイ

先生は病魔に冒されたい

「助手くんは風邪をひいてないのかね?」


「どうしてですか」


「僕は病気になっているときが一番幸福だからね。

 今みたいに風邪すら引いてないときは不幸せなんだよ」


「私は先生の顔を見るだけで吐き気が出そうです」


「それって感染できるかね?」

「もういいです」


病気先生と助手は今日も抜き身の刃で斬り合うような会話をしていた。

先生は病気の権威として祭り上げられる偉大な学者。


……実際は、単に自分で病気にかかってみたいだけの変態である。


その事実を知っているのは、まだ若い女性の助手だけだった。


「助手くん、僕はそろそろガンにかかりたいと思っているんだ」


「すでに脳みそはガンに冒されてもいいころでしょうね」


「助手くんはガンをもっているかい?

 臓器移植を僕にしてほしいんだよ」


「先生に移したら拒否反応でお互いに死にそうですね」



「……むむむっ!!!」


先生はネットサーフィンで世界の病気100選を見てうなった。

でも助手が一向に興味を示さないのでもう一度。



「むむむむっ!! こ、これはなんだーー!?」



「先生、用件言ってください。聞いてほしいアピールが面倒です」


「助手くん、これを見たまえ!!」


先生の見せたホームページにはアマゾンの奥地で正体不明の病気があるとのこと。


「これは病気学者として行ってみるしかないね! 助手くん!」


「先生は自分の体を新しい病魔に侵されたいだけのマゾ変態でしょう」


「ありがとう助手くん! じゃあ一緒に行こう!」

「聞けよ」


助手と先生は問題の熱帯雨林に出かける。

先生は現地の人に何度も聞き込みをして情報を集めた。


「ふむふむ、するとあっちの方に行けば病気になれるんだね!」


「先生、本気ですか。死んじゃいますよ」


「僕が死んでもきっと僕の体は今後の病医学のいしずえになるからね!

 それに新しい病気でどんな体験ができるか楽しみなんだ!」


翌日、事態は急変した。


先生の顔色は真っ青になり、肌には紫色の斑点が浮き出ている。

でもなぜか先生の顔は満面の笑み。


「助手くん……! 見てくれ……! ついに病気になれたよ……!」


「よかったですね死ね」


「体が寒くなったり熱くなったり、こんな体験は初めてだ!

 風邪ともインフルエンザとも違うこの感じ……来てよかったよ」


「で、薬はどこに?」


「薬? そんなものはないよ……。だってこれはまだ未知のものだからね……。

 これからどんな薬が効くか試さないと……楽しみだ」


「先生の準備の悪さには病的なものを感じます」


「ありがとう助手くん。ここからは学者として頑張らなくちゃ」


先生は自分の体をつかってあれやこれやと研究を進めた。

けれど、まったく治らない。


病魔にズタボロにされながら研究なんてできるわけがない。


「助手くん……この病気がこんなに負荷あるものとは……。

 これではろくに研究できないね……ふふ」


「先生、なに嬉しそうにしてるんですか!」


「助手くん、あとは任せたよ……」


「先生!!」


先生が動かなくなる。

助手は目の色が変わり、必死に薬の研究を進めた。


寝る間も惜しんでついに薬を完成させると、先生に服用した。


「先生! しっかりして!」


「…………じょ……助手くん……」


「目が覚めましたか? 薬は効いたみたいですね」


「ああ、そのようだね……君が薬を作ったのかい。

 これじゃあ、君も助手から先生と呼ばれなくちゃ」


「助手でいいです。私がいないと先生は早死にするだけですから」


薬の効果はてきめんで、先生の体に出ていた諸症状が一気に引いた。

けれど、先生は立ち上がるなりふらふらとおぼつかない足取り。


「先生どうしたんです? 薬の効果はあったはず」


「ああ、どうやら別の病気になったみたいだ。

 頭がぼわぼわして、胸が苦しい……」


「今度はなんの病気になったんです」




「恋煩い、さ……フッ」



先生の放ったウインクは、助手の腹パンでかき消された。


「先生、帰りましょう」

「はい……」


二人はまた次の病気に冒されに向かった。

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