第154話 ヤシャルリア達の世界(8)S☆2

「デガルド……」


 俺は、聞いたその名を忘れぬよう、胸の奥に刻み付けた。


「そいつが、俺を……」


 だが。


「あの……」


 その時、メルクオーテがこそりと言葉を発する。


「アタシも訊きたいことを訊いていいかしら?」


 おずおずと手をあげた彼女に、ヤシャルリアは無言でどうぞと促す。

 俺も怒りを腹の底に収めながら、メルクオーテが質問しやすいように口を閉じた。


「ごめんね、タケ」

「いいさ」

「と言っても、アタシが訊きたいことは一つよ。どうしてアタシがこの世界で魔導を使えないのかってこと」


 ヤシャルリアに向き直って訊ねるメルクオーテは怪訝な顔をしている。

 すると、そんな彼女の表情を楽しむように、ヤシャルリアは微笑んで答えた。


「ああ。で、あろうな。そして、その理由を話すことは容易だ。タケに事情を説明するよりも余程。実際に聞けば、貴様もすぐに察してみせるだろう」


 ヤシャルリアは一人頷き、メルクオーテを試すように見つめる。


「回りくどいのは嫌いよ?」


 メルクオーテは少し不機嫌な視線を返した。

 しかし、ヤシャルリアはその視線すら好意的に受け取っているように見える。


「ああ。それは簡単でいいな」


 そして、ヤシャルリアはひと息置き、メルクオーテに答えた。


「貴様が魔導を使えない理由は明白。この世界の魔力が少なすぎるからだ」

「少なすぎる?」

「左様。貴様もタケをこの世界に連れてこれたというなら、この世界の魔導術式の難解さを知っていよう?」

「ええ。ひどく後進的な術式だと思ったわ……」


 メルクオーテは見下すような言い方をする。


「……なのに、アタシには魔導が使えない」


 だが彼女の声は、何故その後進的な術式にできることが自分にできないのかと苛立っていた。

 ヤシャルリアは、そんな苛立つメルクオーテの感情を煽るように告げる。


「当然だな」

「なんですって?」

「理由は簡単だ。この世界の魔力は、貴様の使う魔導術式にとって魔力不足が過ぎるのだ」

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