第153話 ヤシャルリア達の世界(7)S☆3

「まず、最初に言っておく。我々の言うところの敵が召喚しようとした異世界人は200人。だが、そのうち召喚されたのは貴様を含めて130人だ」

「130?」


 それでも十分に多いとは思うが……。


「残りの70人は?」

「言ったろう? 我々は召喚を妨害したのだ。70人は召喚されてすらいない。平たく言うならその者達は難を逃れたのだ。そして、召喚を妨害した結果、召喚される筈だった130人も今我々がいるこの世界には訪れなかった。行き先がどこかは……貴様の方がよく知っているだろう?」


「こことは別の……異世界」


 俺の答えにヤシャルリアはこくりと頷いた。


「そうだ。そしてその130人の内、生き残ったのは貴様だけなのだ。理由は様々、召喚を妨害された際、運悪く異次元の狭間で体が細切れになり死んだ者、召喚された先の異世界で命を落とした者……貴様は、よほどの悪運なのだ、タケ」


 にやりと笑う奴に、俺は不機嫌に笑って返す。


「確かに……幸運とは呼べないな。だが、なぜ俺以外が死んだと言い切れる?」

「なんだ? その答えはもう言ったつもりだったが?」

「どういうことだ?」


「言っただろう。私は、貴様を探していたと。私は敵が召喚しようとした異世界人を、逆に利用してやろうとして探していたのだ。そして、貴様を見つけるまでの過程で生死が判明した人間が129人。うち18人は召喚された先の異世界で死んでいた」


 このヤシャルリアの答えに、俺も流石に察しがついた。

 召喚の難を逃れられなかった運の悪い130人の内、まず生き残れたのは俺を含め19人。

 そこから、召喚された先の異世界で今日まで生き残れたのは俺一人。


 『生きて俺と境遇を同じくする者はいない』


 それはつまり、そういうことなのだ。


「……召喚される筈だった人間は200人。そのうち、生きているのは71人。だが、俺と同じく異世界でこうしている奴は……いない」


 俺は、切られたトカゲのしっぽ……その一番端の部分だったという訳だ。

 以降、俺は思わず言葉を失った。

 代わりに、同じく話を聞き理解したのだろうメルクオーテが呟く。


「……なるほど。200人を召喚する大規模な召喚術式。うち召喚対象になったのは130人でタケはその130人目……だからタケの召喚術式には130人以降――70人分の大量の魔力があてがわれて術式が独立して動き続けられたんだ」


「らしいな。おかげで他の者達とは違い、どこの世界にいるのか補足するのが少し手間だった。そして、ようやく貴様を見つけたと思えば、あろうことか現地人の仲間を作っていた訳だ。黝輝石の体の本来の持ち主と、ここにいるヤサウェイと言う男をな」


 自嘲気味に笑い、ヤシャルリアは椅子に掛け直した。


「結果。私は敵の召喚妨害には成功。しかし、貴重な異世界からの兵力を利用することに失敗した訳だ……ここまでで何か、質問はあるかな? タケ生徒殿?」


 正直、今の話を聞かされただけでだいぶ気が滅入る話だった。

 だが……。


「一ついいか?」


 確認しておかなければならないことがある。


「聞こう」


 はじめは、目の前にいるこの女だと思っていた。

 ある日突然俺が元の世界を失う原因をつくったのは。

 だが、違った。

 こいつは仲間の仇であり、今もヒサカの魂を使って俺達を利用しようとしている奴だが。

 ヤシャルリアじゃなかったのだ。


「お前達が敵と呼ぶ奴は、何だ? 俺を……200の人間を召喚しようとした奴は、一体誰だ?」


 俺が落とし前をつけなければいけない、もう一人の相手。

 俺の問いを聞くなり、ヤシャルリアは愉快そうに唇を歪ませた。


「デガルド……今はなつかしき我が故国の、現教皇を名乗る男だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る