赤鉄鉱の騎士-鉄拳-

第133話 124回1日目〈14〉S★3

 仲間の仇である筈のヤシャルリアは……この124回目の世界ではお姫様だったらしい。


 そんな人物を奇襲したにも関わらず、俺達は投獄や処刑と言った処分を免れた。

 言うまでもなくサクラのおかげだ。


 そして今、俺とメルクオーテはある一室で待機することを強いられていた。


 四方を石壁で囲まれた寝具の置いてある部屋で、決して広くはないが大きな寝具が一つ置かれており、横に長いソファの傍にはちょっとした書き物机が備え付けられている。


 たぶん、部屋が広く感じられないのは、家具の存在があるせいだろう。


 だが――。


「…………」

「…………」


 俺とメルクオーテは、それらの家具に触れることすら無く、部屋の隅でへたり込んでいた。


 俺は入口の傍で、メルクオーテは石窓の下で……。


 互いに一言の口を利くこともなく、壁にべったりと寄りかかる。


「…………」

「…………」

「…………」

「ねぇ……」


 互いの唇が沈黙に縫い合わされそうな中、先に口を開いたのはメルクオーテだった。


「サクラ、大丈夫かな……」


 俺は一度メルクオーテに目を遣り、視線が虚空を彷徨う彼女を一目見て、また目を逸らす。

 何か、慰めになるような言葉が浮かべばいいのだが――


「…………ヤシャルリアは、サクラに私兵としての安全を誓っていた。きっと、大丈夫だ」


 ――俺の口から出たのは、現実を再確認するような言葉だった。

 しかも。


「急に、あの魔女を信用するようなことを言うのね……」


 それは聴き手を慰めるどころか、彼女の不信感を買う言葉になってしまったらしい。


「あんた……仲間を殺されたんじゃなかったの?」


 メルクオーテの切り返した言葉は、ずぐりと俺の胸をえぐっていった。

 俺は、彼女になんと返そうかと考えながら、自分の胸の内を整理していく……その結果。


「少なくとも、俺は奴を信用しちゃいない」


 わかりきった答えと――


「ただ……殺すなら、奇襲に失敗したあの時に殺していた筈って、話だ」


 ――奴に負けたと言う、変わらぬ事実を再確認した。


「…………」

「…………」


 また、二人の間に沈黙が訪れる。


 しかし。


「ごめん……」


 静かな水面に雫を落とすように、メルクオーテは謝罪をこぼした。


「……アタシ、感じ悪かった」


 顔を俯けながら彼女はぽつりとつぶやく。


「サクラ……大丈夫かな」


 繰り返しになったメルクオーテの心配。

 俺は、今度はなんと声をかければいいのだろうと……また、どうしようもなく迷ってしまった。

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