サクラの盟約-敗北-

第125話 124回1日目〈sakura1〉S★3




 この旅の終わりに、私の命というものは存在しない。


 でも、私にとってこの旅は必要だ。


 この旅には意味がある。


 私が胸を張って生きたと言うために。


 私が大好きな人に、大好きなままでいてもらうための旅。


 その結果、どんなに短く、狭い世界を生きることになっても。



 私は、自分が許してもらった時間を、精一杯生きていたかった。




 だからこそ、こんなところで終わる訳にはいかない。


 今、私達は窮地に立たされている。

 私は体の自由が利かず、タケは首元に剣を突きつけられ、メルメルも魔導を使えない。

 それに……。


「不服か?」


 目の前で、私に訊ねた女性――ヤシャルリアさん。

 私達の命を握る彼女は今、私達に対して少しも好意を抱いていない。

 例えば、一方的に遊ぶつもりで話しかけてくるこの人の気持ち一つで、私はタケとメルメルを殺すことになるかもしれないのだ。


 そんな最悪を想像して、背筋が寒くなった。


 できるなら、今すぐメルメルに抱き着いて、彼女の背に隠れてしまいたい。

 でも――この窮地の中にあって、私達にはまだ生きてこの場を脱する機会があると思った。


 何故なら――


「いいえ……」


 ――ヤシャルリアさんは今、私達に対して好意と同じくらいに敵意も抱いていない。

 特に、体を自由にできる私を、彼女はまるで脅威としてみていなかった。


 だから、付け入ろうと思った。


 怒りも怖さも飲み込んで、この人の前で、人形を演じようと決めた。

 あの人が作ってくれた自分という存在の、閃きを信じて……。

 二人を守るために、私はゆっくりと口を開く。


「むしろ、好ましいです」


 すると、ヤシャルリアさんの顔から薄い笑みが消えた。

 彼女は短い声を漏らし、私に対して興味を示す。


「……ほう?」


 まるで、つい手に取った本のページをめくり始めるかのように。

 ヤシャルリアさんの声は飽いたら捨ててしまえばいいと、無責任な気軽さを孕んでいた。

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