第126話 124回1日目〈sakura2〉S★4

「一体何が好ましいと言うのだ? 死地に立った故の命乞いの類か?」


 けれど――


「いいえ。違います」


 ――ここで飽きられる訳にはいかない。


「では、何故?」


 今、ヤシャルリアさんにとって私達は狩り終えた弱者でしかない。


 でも、それじゃだめなんだ。


 私は――私達は、彼女の興味が費えぬ内に、もう一度敵として認識されなくてはいけない。

 それもただの敵ではなく、ヤシャルリアさんにとっての脅威として。

 狩り終えた弱者のままでは、必ず殺されてしまう。

 彼女の無関心が、私達を殺せと命令させる。


 だから私は、冷たくヤシャルリアさんを見据え、怒りや恨みは腹の底に沈めて口を開いた。


「私の主である人は、ヒサカさんの魂を奪った人だから」


 刃物の切っ先を向けるように、冷たい視線を送る。


「私にとって主とは、討つべき敵を指す言葉なんです」


 貴方が私を支配下に置いていると思うのなら、それは間違いだと示すように。


「それが貴方だというのなら、とても好ましい……」


 貴方は今、裸のナイフを抱えて眠っているように無防備だと言わんばかりに。


「私の敵が誰だかはっきりするのだから。目の前にいる貴方だと確信できるのだから」


 貴方の有利は、少しの要因が崩れれば泡となって消えるのだと伝えるために。


「討つべき敵を得られること程、私のような人形にとって望ましいことはない」


 私は示す。

 彼女に価値を――。


 私は、ヤシャルリアさんが騎士に命じた言葉を忘れていない。

 彼女は言った。


『殺さず捕らえよ』と。


『それは客将足りえる人物だ』と。


 故に示すしかない。


 タケは――私達は、彼女にとって価値ある敗者だと。

 貴方が今そこで遊んでいられるのは、ただ運が良かったに過ぎないのだと。

 例え利用されることになるとしても、この旅の目的を果たすため、これは必要なことだった。


「だから言ったんです。貴方が主で、むしろ好ましいと。私の主は、あなたでしょう。と」


 ヤシャルリア――彼女の敵となるために、ただの人形兵員を演じることが、私には必要だった。

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