第84話 123回10日目〈14〉S★1

「……可能性は低いわ。けど、絶対起きないとは言えない」


 確証なく答えるメルクオーテの片眉がつり上がる。

 彼女は「だからこそ」と前置いて続けた。


「アタシがわざわざ食事を分けたのは、を起こさせないためよ。いい? 解析が終わるまではね、むちゃなこと禁止。絶対、勝手に転移しようなんて思わないでね?」


 メルクオーテは俺に釘を刺し、ぷいっとそっぽを向く。

 無論、一人で勝手な真似をするつもりなどなかった。

 だが俺も、いつまでもこの世界に留まっていてはいけない。

 ヒサカの魂を取り戻すため、目指さなければいけない世界があるのだ。


「わかってる。無茶はしない。でも、その解析が終われば試してもいいのか?」


 この俺の許可を求める訊き方に、メルクオーテはちらりと目線を戻した。

 彼女は両の手の指先を擦り合わせ、それがどこか拗ねた幼子を思わせる。


「もちろん、君に貸を全部返した後でだ」


 ふと、俺がそんなことを付け足すと、メルクオーテは「当然よっ」と口早に言い、また明後日の方向へ視線を逸らした。

 だが――


「あと、これは解析が終わった後の話なんだけど……」


 ――彼女は、少し自信なさげに次の言葉を口にする。


「あんたは、任意での転移が可能になると思うわ」


 対して俺は、新たに告げられた可能性に、驚きで心が震えた。


「本当、なのか?」


 しかし、メルクオーテの言葉を俺は到底信じられない。

 ぐいっと顔を近づけ詰め寄る俺を、彼女は押し退けながら答える。 


「あくまで仮定の話よ? それに、第三者の魔導士の手をかりることになるわ」


 メルクオーテは「アタシみたいなね」と続けて、自身を指差した。

 が、俺の関心は既に別のところにある。


「その解析はいつ終わるんだ?」


 だが、気持ちが急く俺に彼女は難色を示した。


「それなんだけど、正直行き詰ってるわ……」


 メルクオーテは脚の膝をつかって頬杖をつくと、愚痴をこぼすように俺達に聞かせる。

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