第61話 123回2日目〈4〉S★2
その途端、心が俺に、もう、どうにもならないのではないか? とささやく。
しかし、俺に語り掛けるのは自身の不安だけではない。
「それに、まだ問題が」
メルクオーテは妙にかしこまった様子で、続けて聞かせた。
「あの子を修繕する時に、液体宝石を体に流し込んだの。古くなった血の代りよ。上手く循環すれば体の強度や動きを以前よりもずっと向上できると思って……けど、液体宝石は循環させないと固まってしまうの。そしたら、あの子の体は二度と動かなくなるわ」
だが、俺は彼女が話したことを上手く理解することができず――
「……なら、循環させればいいじゃないか」
――愚かにも、そんな馬鹿を口走る。
すると、メルクオーテは疲れたように小さく首を振ってから、ゆっくりと俺へ言い加えた。
「液体宝石を循環させるには、素体を起動しなきゃダメなの。そして、素体の起動には彼女に人格が不可欠よ」
そこで、俺はようやく彼女の言葉を理解する。
つまり、ヒサカの体を別人格に明け渡さねば……彼女は物言わぬ石と同じになると言うのだろう。
どのみち、魂をもたない彼女は、ここで終わりだと。
けれど俺は、その事実をとても受け入れられない。
「メルクオーテ……なんとか、ならないか?」
許しを請うような情けない声が出る。
対して、メルクオーテは口を固く結んで一声も発しない。
それは、俺のわがままへの否を示す態度に思えた。
しかし――
「なんとか、なるかもしれない」
――一筋の光明は差す。
メルクオーテが難しい顔をしながら、自身に言い聞かせるように口を開く。
「後から上書き可能な仮の人格を入れるの。元の人格が手に入った時、彼女に体を返せるように……ただ、これにはいくつか問題が残るけど」
そして、俺は――
「いや、やってくれ。頼む」
――彼女が与えたわずかな希望にすがった。
「それが、今の最善だろう?」
「……ええ、今はね。そう、これしかない」
この選択が、誰から何を奪うのかなど考えもせずに。
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