選択-仮初-

第60話 123回2日目〈3〉S★2

「何を言ってるんだ、お前は?」


 ようやく口に出た言葉も不信の塊のようなものだ。

 だが、メルクオーテはさも当たり前のことしか言ってないとばかりに、首を傾げてみせる。


「なにって……要望を聞いてあげてるんじゃない」

「だから! 要望なんて聞く必要ないんだよ! 彼女の性格をいじるなと言ってる!」


 怒気を孕んだ俺の声で、彼女の表情に影が差した。


「ちょっと待って。じゃあ、あんた。まさか、この子の元人格を起こせって言ってるの?」


 眉根を寄せて訊ねるメルクオーテに俺は頷く。

 すると、彼女は怪訝そうな顔をして俺から視線を逸らした。


「まさか、できないのか?」

「……難しいわ」

「……君にはできないのか? 優秀なんだろっ」

「煽らないで! 魔導はそんな単純じゃないの!」


 メルクオーテは荒々しくため息を吐き、片手で頭を抱える。

 彼女はくしゅりっと髪を握りしめ、苦々しく口を開いた。


「アタシは……疑似的に以前の人格を模倣することならできるわ。ただ、正真正銘の元人格を起こせるのは、最初にあの子をプラチナドールにした魔導士だけよ」


 その言葉に、俺は嫌でもあの女を思い出す。

 頬に傷を持った、忌まわしいヤシャルリアを……。


「どういうことだ?」


 重い口調で訊くと、メルクオーテは淡々と語り始めた。


「プラチナドールは、言うなれば魔力を極限まで人間の体に流し込んで身体能力を強化する魔導なの……でも、人間の魂には魔力を抑制し、制御しようとする側面があるわ。魂がある限り、完全な意味で魔力を使って身体を強化することはできないの」


 そして、彼女はとんと自分の心臓部分を指差して俺に告げる。


「だからプラチナドールを作る時、魔導士は最初に素体となる人間の魂を抜き取るのよ。そして、その抜き取られた魂には人間の人格。その一端を握るものが宿っているの。つまり、抜き取った魂を元に戻せるのは……」


「……抜き取った当人だけ」


 メルクオーテの言葉を言い接ぐと、彼女はゆっくりと頷いた。

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