第59話 123回2日目〈2〉S★2

 あの液体の後味の悪さは、例えるなら糞尿を舌に塗りつけられたような感じだろうか。


「すまん。もう一杯水をもらえるか?」


 既に飲み干し空になったグラスをメルクオーテに手渡すと、彼女はすぐに水を注いで俺に差し出し――


「お金」


 ――そう真顔で呟いた。


「本気か?」

「冗談よ」


 にこりともしないメルクオーテの表情から、その言葉を信じるのは難しい。

 俺はグラスを受け取りはしたものの、口をつけることは阻まれた。

 一旦水を飲むことを諦め、気を紛らわそうと疑問を口にする。


「なあ、本当にこんなことが礼になるのか?」


 すると、彼女は質問に答えず、一本のナイフを持ち「手を出して」と告げるなり俺の手を取った。

 直後、メルクオーテは指先にナイフを押し当てる。


「少し切るわ」


 そして、俺の了承も待たず、ぷつりと指先を切った。

 細く皮膚が切り破られ、玉のような出血をする。

 彼女はそれを細いガラス管へと採取し、隅の卓上へと持って行き。


「ちゃんと礼になってるわよ」


 そこではじめて返答した。


「人体実験に協力してもらってる訳だしね」


 メルクオーテは俺へと振り向きながらガラス管の中に複数の液体を加え、軽く揺すり始める。


「アンタの体質は興味深いわ。とてつもないローコストでの異世界転移を実現させてる。転移自体は珍しい現象でもなくありふれた魔導の一種だけど、ローコストってのがミソね」


 彼女は変色していく中身を見つめながら、少女らしからぬ下卑た笑みを浮かべた。


「その体質を解析して魔導に応用できれば、どれ程の儲けになるか。想像を絶するわぁっ」


 そう語るメルクオーテはとても上機嫌に見えたので。


「……なあ、俺はいつ頃ヒサカと話せるかな?」


 ぶしつけにもう一つ疑問をぶつけてみると、彼女は思い出したように俺と目を合わせる。


「そのことで相談なんだけど」


 にこりと営業スマイルを浮かべながら次に告げられた言葉に――


「あの子にはどんな性格を埋め込めばいい?」


 ――俺は言葉を失った。

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