第58話 123回2日目S★1

「あんた。何でもするって言ったもんね?」


 緑のコケと黒い絵の具を溶かして水で混ぜたような液体を差し出しながら、メルクオーテはにっこりと微笑んだ。


「……そんなこと言ったか?」


 俺は、液体の入った容器を受け取ると軽く揺すってみる。

 どろどろとしたそれは所々に固形物が確認できた。

 その見た目に昔にモロヘイヤを飲んだ時のことや、スライムの内臓を食べた時のことを思い出す。

 あれらも見た目がこんなのだった。

 それに比べて、今回の液体これはその外観に反して全くの無臭だと言うのが逆に恐ろしい。


 そうして液体を訝しく思って口にしない俺に、メルクオーテはいら立って声を発した。


「アンタ。アタシが望むこと、なんだってやるって言ったわよ」


 耳に届いたその言葉に、俺はひどい拡大解釈をされたもんだ、と思いながら口をつぐむ。 


 だが――


「あの子と、話したいんでしょ?」


 ――メルクオーテが試すような眼差しを向けながら、挑発的に訊ねた瞬間、幾度目かわからない覚悟を思い出す。


 そして、液体の入った容器を唇にあてがった……のだが――


「なあ、一ついいか?」


 ――その得体のしれない代物を口にする前に、確認したいことがあった。


「これは、何が入ってる? もう話したことだが俺は――」

「わかってる。色んな食べ物やらなんやらを口にする度、転移してきたんでしょう? ちゃんと覚えてるわよ。きちんと配慮はしてるから」


 やれやれと肩をすくめながら言葉を言い継いだ彼女に、俺はひととき安堵する。

 しかし――


「安心していいわ。それに入ってるのはおおよそ食べ物なんてものじゃないから。あんたがあの人形を置いて、次の世界にしちゃうなんてことはないわ」


 ――続けられた言葉に、俺は一体何を入れたのかと、それを飲みもしない内から吐きそうになった。


 けれど、直後に余計な思考は切り捨て、容器の中身をぐっとあおる。

 すると、砂や石を水で溶かしただけのような、ざらざらした食感が舌を襲った。

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