第57話 123回1日目〈7〉S★2

「なあ、メルクオーテ? ヒサカ……彼女は?」


 拭いきれぬ不安を心にまとわりつかせて、俺は訊ねる。

 すると――


「え? ええ。? アタシが修繕したんだから、当然じゃない」


 メルクオーテは、再び腕組みをして不遜に言ってみせた。

 した、と。

 その言葉の選択は、ヒサカに対してあまりにも血の通わないものだ。

 だから俺は、重ねて訊ねた。


「なあ、あの子は今、生きてるよな?」


 だがこれは、質問と言うより自分の希望を口にしただけだったのかもしれない。

 直後、そんな俺の望みをメルクオーテは易々と打ち砕いた。


「何言ってるの? 死んでるに決まってるじゃない」


 そう、彼女は首を傾げながらさも当然のように言い切る。

 しかし、どうしても俺は信じられなかった。

 何故なら、今のヒサカの体には『死』という言葉が遠すぎる。

 墓地でひどく潰れて転がっていた時とは……あまりに違うのだ――なのにっ。


「あの子が、死んでる?」

「そう。だから彼女はプラチナドールになれたのよ。あれは命と引き換えに、強靭で美しい体を手に入れるための魔術だから」


 メルクオーテに語られた言葉と、美しくつくりかわったヒサカの体は、俺から緩やかに感情を奪っていく。

 だが――


「なあ、メルクオーテ」


 ――まだ、絶望する程じゃない。


「彼女と、話せるのか?」


 前の世界に置いてきてしまった筈の約束を、はじめて次の世界ここに持って来られた。

 それになにより、俺はヒサカを見捨てないと誓ったのだ。

 なら、俺はあの子の傍にいよう。


 可能性を手繰るように訊ねた俺に、メルクオーテは答える。


「そりゃ、できるけど……――」


 まるで俺を値踏みするように見つめながら。


「あんた。何ができるの? アタシに、何を払える?」


 彼女の視線は俺を試す様で、蛇の毒みたいに体を強張らせた。

 でも、ここで引くわけにはいかない。


「俺が、できることを何でも。君が、望むことを限りなく」


 だから、俺にあるものを、全部だって差し出してみせるさ。

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