第47話 122回111日目〈35〉S★5

 そして、ヤサウェイは笑ったまま動かない。

 彼はヤシャルリアの腕を引き留めたまま、光り輝く円の中で立ち尽くしていた。

 その姿が、彼の表情が、そこに立つ意味が――全てがヤサウェイとの最後を予感させる。


「ヤサウェイ……何をしてるっ! そんな女置いて戻ってこいっ!」


 心を軋ませる不安と恐怖に、俺は口を裂いて叫んだ。

 しかし、彼は動かない。

 ヤシャルリアを己が腕に捕らえたまま、彼は不動を貫いた。

 だが、そんなヤサウェイとは対照的に、奴は灰褐色の腕の中でもがき癇癪を起した少女のように騒ぎ立てる。


「ふざけるなっ! 私がここに来た意味をっ――離せっ! 女っ! その男を連れてこいっ!」


 彼女は勝利の笑みを打ち砕かれ、今はただ声を荒げることしかできなかった。

 そんなヤシャルリアのわめき声がまき散らされる中――


「タケ……」


 ――不思議と、俺の耳にはヤサウェイの声がいやにはっきりと聞こえる。


「君は、ヒサカを連れて行け。僕はこいつも連れていく」

「なにを言ってるっ!」


 意味はわかっていた。

 そして、俺には彼を止められないことも。


「最初に言ったろ? いや、少し言葉を変えたな。でも――」


 彼は決して動かない。

 満身創痍の状態で、負った傷をまるで鎧のようにまといながら。

 ヤサウェイはこの瞬間、この最後を――堂々と、力強く、彼らしく迎え入れた。


「――約束は果たした」


 その言葉は、俺の胸を重く貫いていく。


「待てヤサウェイ! 俺はまだ――」


 ――約束を果たせていない――


「――お前が見届けろっ!」


 腑抜けた今の自分への恥じ、不安と焦燥が押し寄せた。

 けど――


「見ずともわかる。君は、これからやり遂げる」


 ――彼の一言で、俺はを取り戻した。

 とても単純で、語りつくせない大きなものを。


 なおも笑みを浮かべながら、ヤサウェイは俺に言葉を重ねる。


「ヒサカには、君がついていてやれ。大丈夫。これも最期じゃないさ――」


 そんな言葉を最後に彼は、ヤシャルリアを連れ……去っていく。

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