第48話 122回111日目〈36〉S★3
この瞬間、二人を囲む円は一層強く光を放ち、その周囲に爆風めいた風を生んだ。
「ヤサウェイッ!」
俺は声をかき消され、体が風に吹き飛ばされる。
地面を転がり視界がぐるぐると回る中、体の至る所をぶつけた。
ようやく風が治まり、再び顔をあげた時……。
ヤサウェイの立っていた場所には何も残ってはいなかった。
ぽっかりと丸い円形の空白が広がるぬかるみは、胸の内の喪失感を思わせる。
しかし今、俺の心を支配するのは喪失感ではない。
「ヒサカ……」
鈍い痛みが続く体を起こし、俺はヒサカを探した。
ぐるりと周囲を見渡すと、彼女はすぐに見つかる。
ヒサカは近くの墓石を背にして横たわっていた。
ひとまず、あの風に彼女が飛ばされていなかったことに胸を撫で下ろす。
それから、俺は手で這ってヒサカのもとへと進んだ。
横たわる彼女は息をしておらず、瞳を固く閉じている。
そっと頬に触れてみると、肌がひどく冷たかった。
青白い顔色も、まぎれもない彼女の死を連想させる。
だが、彼女はもう……人間じゃない。
体温がなくとも、肌の色がどうなろうとも……もはや彼女を見捨てる理由にはならないのだ。
「二度と、お前を見捨てない……あいつにも、そう約束した」
俺は、ヒサカの体へと手を伸ばした。
鈍痛を堪え、握りつぶした彼女の腕を自分の首に回し、脇と膝の下に両腕を潜り込ませて体を抱き上げる。
そして、やけに軽く感じるヒサカを腕に、俺はゆっくりと立ち上がった。
月明かりが照らす墓地に、もう生者は俺しかいない。
喪失感と使命感がせめぎ合う中、俺は一人……途方に暮れる。
しかし、幸運なことに俺は……感傷に浸るような暇を与えられなかった。
直後、泥が跳ねる音が聞こえ、俺は視線を奪われる。
顔を向けた先には、死んだはずの仲間が立っていた。
「……ハキ。ズグゥ」
二人は腕と生気を失って、俺に向かってくる。
獣のような低いうなり声をあげながら、仲間としてでなく……
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