第46話 122回111日目〈34〉S★4

 だが――


「……僕は、もう人間じゃない」


 ――予兆それは予兆でしかない。


「ヤサウェイ、お前……」


 腹に穴を空け、僅かに血を流すヤサウェイが、俺の目に映っていた。


「貴様! まだっ!」


 それは、振り返ったヤシャルリアにも同様だろう。

 直後、奴は突き立てた細剣を手に取り、ヤサウェイの首をはね飛ばそうと斬りつけた。

 でも、その刃は届かない。


「馬鹿なっ!」

「君のおかげで一つわかったことがある」


 ヤサウェイは、あろうことか細剣の刃をで受け止めていた。

 そして、その瞳で俺を……いや、ヒサカを――俺達を見つめる。


「人間でなくとも僕は僕みたいだ。なら……僕は約束を果たそう」


 次の瞬間、ヤサウェイは細剣の刀身を握り締め、ヤシャルリアの手から奪い取った。

 その後、細剣を投げ捨て、奴の腕を掴んで自らの方へぐっと引き寄せる。


「ありえんっ! こんなことが! 離せ! 離せぇっ!」


 腕を引かれたヤシャルリアは堪らず、杖を使ってヤサウェイの体を強く打った。

 しかし、灰褐色の体を得たヤサウェイは、あんな打撃ではびくともしない。

 彼はヤシャルリアの抵抗をものともせぬまま、その腕を引きながら、俺達に一歩、また一歩と近づいた。


「止まれ! 動くなっ!」


 だが、そんな言葉がヤシャルリアの口から飛び出した時、ヤサウェイはふと足を止める。

 そこは奴によって出現した、光り輝く円の内側だった。

 ヤサウェイはにやりと笑い、ヤシャルリアの顔を覗く。


「ヤシェーリア。一つ訊く。この円の外へ二人を放り出したら、君はどうする?」

「やめろっ!」

「悪いな」


 彼はヤシャルリアの言葉を聞くや否や、俺とヒサカをまとめて掬うように蹴り上げた。

 唐突に訪れた浮遊感の後、俺はヒサカと共にどさりと地面を転がる。

 次に顔をあげると、俺達は円の外にいて――


「先に謝ったぞ、タケ!」


 ――俺達を蹴り上げた男は、笑っていた。

 疲れ切った顔に後悔を貼り付けたような影を落として……それでも人間らしく。


 彼は笑った。

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