第38話 122回111日目〈26〉S★3
そんなヤシャルリアの言葉と視線が一体何を意味するのか。
それは、次の瞬間には理解できた。
突然、俺は何者かに腕を掴まれ、その場に組み伏せられる。
「なっ――」
べしゃりとぬかるんだ地面に顔を押し付けられ、背中に圧し掛かられるような重みを感じた。
その後、俺は視界の端に映った重みの正体……彼女の姿に、心臓が張り裂けそうになる。
「――ヒサカッ」
ヒサカは俺の背に乗ったまま、強く腕を締めあげた。
瞳に涙を浮かべ、悲痛な声を出して。
「ごめんね、タケ。あたし、もううまく体、動かせないみたい」
謝る彼女の体は両腕と片方の足を灰色に染めていた。
これは、ヒサカがヤシャルリアの支配下にあるという証だ。
彼女は、ついさっきまでまともに動かすことすらできなかった腕で、信じられないような力を出している。
一瞬、力任せに振り払うことが脳裏を過ったが……。
「動くなよ?」
ヤシャルリアがそんな言葉を発した途端、ヒサカは短刀を手にし、それを俺の喉元にあてがった。
俺はヒサカから目線を外し、奴をにらみ付ける。
ヤシャルリアは冷酷という言葉を口紅にしたようにうっすらと笑い、口元を歪めた。
「お前の怪力は知っている。そして、その出自もな」
「……お前、一体なんなんだ」
無力感を噛みしめながら、俺はそう問いかける。
すると、奴は「言っただろう?」と、前置いた。
「私はヤシャルリアだ。お前をずっと探していた。お前がこの世界に来る、ずっと前からな」
「探していただと?」
「ああ。共に来い、異世界の来訪者。お前が来るならばこの二人も悪いようにはしない」
ヤシャルリアはそう言って、組み伏せられる俺に手を差し伸べる。
しかし――
「そうか。君の目的は、タケか」
――奴が俺へと向き直り、背を見せたその瞬間、ヤサウェイが打って出た。
「その目的、決して遂げさせない!」
刹那。彼は利き腕に短刀を忍ばせ、素早く振りあげる。
そして、灰色の腕が反応するより先に、自らの腕を斬り落とした!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます