第24話 122回111日目〈12〉S★4

 なのに、当の本人は灰褐色の死人と戦う姿勢を崩さない!

 ズグゥの両腕が奪われたのを直視したであろう彼女は、二本目の矢に手を伸ばした。


 そんなヒサカの果敢な勇姿は俺に燃えるような不安と焦燥を抱かせる。

 そして、彼女が矢に指をかけた時、死人は両腕のないズグゥの肩を押しのけた。

 その光景を目にしながら、俺達も同時に行動に出る。

 死人と対峙するヒサカの前に出ようと、仲間の誰もが駆け出した。


 すぐに詰められる筈だった彼女との距離は、この刹那の連続にはあまりに遠い。


 対して、死人は易々とヒサカの目前にまで迫っていた。


 奴は格闘士のごとく両腕を構え、大きな一歩を踏み込む。

 すると、ほぼ同時にヒサカは矢をつがえ、ぐっと弦を引いた。


 しかし、彼女が矢を放とうとした直前、死人は踏み込んだ足で地面を蹴り上る。

 次の瞬間、奴は凄まじい跳躍で一息にヒサカとの距離を詰めてしまった!


 その後の光景を、闇夜のぬるい空気を体で裂いて駆けながら、俺達は見るしかない。


 死人の灰に染まった腕が弓を持つヒサカの左腕を掴み、何の抵抗もなく握りつ潰した。

 奴が手を離すと、折れた腕がまるで千切れかけの小枝みたいにヒサカの肩に垂れ下がる。

 悲鳴にもならないようなうめき声が短く耳に届き、俺は血が滲む程歯を食いしばった。


 彼女が握っていた矢は手からこぼれ、ぬかるみの中へと刺さる。


 無事だった片腕で左肩を押さえるヒサカは、痛みを堪えながら無意識に後ずさっていた。


 受け止めなければ。

 今にも倒れそうなあの背中を。


 世界が停止しそうな錯覚の中、ヒサカに届けと願う。


 あと、寸前のところで手が届く。

 その瞬間、死人は動いた。


 奴はぬかるみの中を踏ん張り、ヒサカの左肩に回し蹴りをあびせる。

 刹那、彼女の肩や腕が針金みたいにへしゃげるのを見た。


 もはやヒサカは悲鳴をあげることもなく、体をくの字に曲げ吹っ飛ばされる。

 直後、彼女は墓石へと激突し、その腹には墓の石片が深々と突き刺さっていた。

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