第23話 122回111日目〈11〉S★3
矢はズグゥの耳をかすめるように空を走り、死人の頭を一直線に目指していく。
しかし、矢が死人の頭を貫くことはなかった。
奴は首を逸らし、寸前のところで矢を避けたのだ。
大道芸のような死人の軽業に、思わず俺は目を剥く。
だが、奴が矢を避けたその一瞬の間こそ、ヒサカが勝ち取った起死回生の時間となった!
「うおおっ!」
体勢を立て直したズグゥが瞬時に斧を構え直し、それを下段から力一杯に振り上げる!
彼が手にした厚刃は死人の腹をめがけ、殺意を持って暗闇を斬り潰していった。
夕闇に光る斧の一閃。
その力強い鉄のきらめきに俺はズグゥの勝利を確信した。
直後、耳で骨を断つような斬音を聞き、両目で鮮血が噴き散る瞬間を見る。
それは鮮烈な赤に染まる、勇猛な光景だ。
だからこそ……俺はズグゥの背を見つめ、身動きが取れなくなった。
灰褐色の死人は、まさに規格外というに相応しいゾンビだ。
奴は、そう思わざるを得ないゾンビだった。
ならば、奴の血があんなにも赤い訳がないのだ。
「逃げろおっ! ヒサカアッ!」
気付けば、俺は叫んでいた。
しかし――
「うっ――あっ、がああああああぁっ!」
――ズグゥの悲痛な叫びが俺の声をかき消してしまう。
そんな中、俺は彼の両腕がぼちゃりと泥をはねてぬかるんだ地面に落ちていくのを見た。
何故? どうやればズグゥの太い腕を素手で断つことができるっ?
俺は今、目の前で起こったことの過程を何一つ理解できないでいた。
だが、それによってもたらされた最悪の結果なら理解している。
それはズグゥの敗北。
そして、前衛を失った弓兵であるヒサカの明らかな危機だった。
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