戦闘-腐臭-

第17話 122回111日目〈5〉S★1

 血色を失ったゾンビは灰を全身に塗り込まれたような体色をしている。

 髪はボロボロで、体の所々に穴が空いていた。

 その穴から、黒ずんだ内臓が飛び出している様など、とても直視できるものではない。

 見ているだけで鼻が曲がりそうだった。


 そんな怪物を前に、ヤサウェイは俺達へと振り返る。


「準備はいいかい?」


 その問いに、俺達は答えなかった。

 だが、各々が無言で武器を構え、長である彼に応える。

 その姿を見て、ヤサウェイは「よろしい」と口にし、再びゾンビへと向き直った。


「じゃあ、行くぞ」


 そう言うと、彼は鞘に納めていた銀のサーベルを引き抜く。

 刀身が鞘に擦れ、美しい金属音が鳴り響いた。

 その音を聞きつけたのか俺達の殺意に気付いたのか、一匹のゾンビは視線と明らかな敵意をこちらに向ける。

 そして、目が合った瞬間――


「かかれ!」


 ――時差はなかった。

 俺達はヤサウェイの号令と同時に、全員が走り出す。


 直に俺はヤサウェイと並走し、彼を頭一つ分抜いた所で武器を下段に構えた。


 それは、何の飾り気もない長い鉄製の棒。

 刃もなければトゲもない、中身の詰まった鉄パイプのような代物だった。


 俺はをゾンビのあごへ、下から上へと叩き上げると決め、手に力を込める。

 駆ける俺とゾンビの距離が狭まった。

 握りしめた武器が、奴のあごへと届く距離に入る。

 瞬間、俺はぬかるんだ地面を踏みしめ、ゾンビのあごめがけて思い切り鉄棒を振り上げた。


 直後、手に骨を砕く感触が伝わる。

 ゾンビのあごが砕けている様が見え、腐った肉に混ざって歯が飛び散っていった。


 決定的な一撃。それでも、俺はまだ鉄棒を振り抜く。

 すると、頭蓋骨――あるいは肉が鉄棒に引っかかったのか、首がぶちぶちと音を立ててちぎれだした。


 ゾンビの頭が脊髄を糸のように連ねて、体から引き抜かれる。


「容赦ないな、鹿。少しは死者をいたわってやれ」


 その光景を見たヤサウェイは、俺に追いつくなりそう軽口を叩いた。

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