第11話 122回109日目〈10〉S★1

「ね、次何か食べるんだったら最初から料理されたのにしようよ」


 ヒサカはまるでねだるように誘ってくる。

 しかし俺は「それじゃ意味がないんだよ」と素っ気なく答えた。

 すると、どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。


「いじっぱり」


 ヒサカはふくれ面を作ってこぼすと、視線を俺から並んでいる商店の列へと移した。

 そんなそっぽを向く少女に聞えぬよう「なんとでも」と呟き、俺は手帳を開く。


 そして、ふと考えてしまった。


 俺は、そんなに意地を張っているのだろうか? と。


 頭の中で、ヒサカに言われた『いじっぱり』という言葉が何度も再生された。




 別に俺は珍味探しを楽しんでいる訳じゃない。

 この悪食は……あくまでに続けているのだ。

 自分の呪いと言い換えてもいい体質を利用して、いつか再び日本に帰るために。


 そう、俺は何か食べ物を口にするたび異世界へ転移してしまう。

 それも調理されていない食べ物――例えば肉や魚、果物や野菜といった食材だ。


 だが、必ずしも調理されていない食材を食べることが転移の絶対の条件ではない。

 一部、例外もある。

 それが調理済みの肉や魚……虫といった食材だ。


 しかし、ここで一つ問題がある。

 何故か調理済みの肉や魚を食べた場合、転移の頻度が極端に落ちるようなのだ。


 ならばと、転移する確立をあげるために、生肉や生魚を多く食べようと思ったこともあったが……あれはあまり健康に良くない。


 以前、耳の生えた海蛇のような生き物を食べる習慣のある世界に行ったことがあったが、ひどかった。

 食った後、転移することには成功したのだが、その後一週間ほど食あたりのような症状に襲われたのだ。

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