record6 博士 後半


「はー、いいお湯だねぇ〜」

2人は桶のような、木製の浴槽に足を曲げて入っていた。体を休めるには些か地位なすぎる様相である。風呂場であるので当然2人は一糸まとわぬ姿で湯に浸かっている。

「そうだな」

ミカが右側の壁を凝視しながら言った。こんな近い距離で裸になるなど初めての経験だったため、目のやり場に困っていた。

「ミカちゃん肌白くて綺麗だねぇ」

フミはミカの羞恥など御構い無しに、ミカの体を親父のように、舐め回すように見る。

「あんまりジロジロ見るな......」

フミが頬を赤く染め、フミの方をチラチラと見る。フミは自分と比べると、だいぶ女性的な体つきをしており、まぁ分かりやすく言うと、発育が進んでいる。自分の凹凸の無い、貧相な体とは大違いだ。もしかしたら年齢が違うのかもしれない。そもそも今までは同い年のように接してきたが、外見から判断するに、自分の方がフミよりも少し幼く見える。ひょっとして、自分の方が年下なのかもしれない。しかし、ミカはこれ以上深く考えるのはやめることにした。どうでもいいことであるし、それに今更年の差を知ったらかと言って、態度を変える気は無かった。

しかしまぁ、あれだけの食事でよくこのプロポーションが保てるものだ、頭にカロリーを使っていないからだろうか。正直少し羨ましい。

「湯加減はどうだい?」

外から博士の声が聞こえる。博士が薪をくべ、火を焚いて湯を沸かしているのだ。湯は非常に快適な温度で保たれていた。

「ちょうどいいです〜」

フミがのんびりとした口調で答える。

「そうだな、これくらいがちょうどいい」

「そうかい。じゃあゆっくり浸かってきてくれ」

博士は火を消して風呂場の外の壁の向かうから離れて行った。

「うーん......ミカちゃん本当に綺麗だよね、同じもの食べてるのになんでこんな風になるんだろう」

それはこっちの台詞だ、と言いたくなったが、ついそんなことは無い、と言ってしまった。こういうところで素直になれないのが自分の悪いところであると思う。

「うんうん、綺麗だよね〜」

フミはそう言いながら湯船の中の手を密かに動かした。ミカが訝しく思いフミの方を見ようとした時、唐突に、太ももに嫌な感覚が流れた。

「ふひゃぁ!」

思わず、可愛らしい声をあげてしまう。フミがミカの足を撫でたのだ。

「急に何するんだ!?」

ミカが顔を怒りと羞恥で真っ赤にしながら怒鳴る。フミはそんなミカのそんな言い方をなど気にせずに、飄々とした態度で返す。

「いや〜、ミカちゃんが余りにも油断してたからついね」

「くぅぅ」

ミカが悔しそうに唸る。なんとかして報復しようとするが、フミはなかなか隙を見せない。

「やだなぁ〜ミカちゃん、そんなにジロジロ見ちゃ、恥ずかしいよぉ」

フミがわざとらしく言う、演技だとわかってはいるが、ミカにとってはそれでもこういうことを言われるのはかなりやりづらい。

「それはおまえっっひゃっ!」

足元にさっきとは違う感触が、現れた。今度はなんだと思い湯船の中を見ると、フミがミカの足に自分の足を絡ませていた。

「なにをする?」

「ミカちゃんって足弱いの?」

フミがまるで面白い玩具を見つけた子供の、ような目をしてミカに問う。

「な......」

ミカがたじろぐ。フミはそれを見るや否や、間髪入れずミカの足を擽りだした。わしゃわしゃと動くフミの指が、蜘蛛のようにミカの太ももを這う。ミカは声を出すまいと懸命に堪える。

「ほらほらミカちゃん笑っちゃいなよぉ〜」

フミが助平親父風にミカの耳元で囁く。ミカはぎゅっと目を瞑り、顔を真っ赤にして懸命に堪える。

「ほらほらほらほら〜」

フミは時折触り方を変えながらいやらしくミカを触る。ミカの頬が引き上がり我慢が限界に達しようとしたとき、ガラガラと音を立てながら、浴室の扉が開いた。そこには博士が風呂に入る準備を整え立っていた。その目からは感情を推し量ることができない。

「お取り込み中だったか」

そう言い放つと、浴室のドアを再びピシャンと閉めた。

2人はなんだか恥ずかしくなった、いそいそと浴室を出た。



「はー酷い目にあった」

ミカは悪態をつきながら、博士に借りた寝間着を着る。サイズはブカブカで手は指先まで隠れており、足も裾を引きずっていた。

フミの方に目を向けると、フミはまだ体を拭いていた、体の表面積が多い分当然体を拭くのにも時間がかかるようだった。

「さっきは随分と楽しそうだったじゃないか」

博士が何故だか少し嬉しそうだった。自分たちが風呂から出てから入浴したのに、もう出ている。烏の行水とはまさにこのようなことを指すのであろう。

「フミが勝手にしただけだ」

「えー!ミカちゃんもたのしそうだったじゃん?あんなに笑ってさ!」

あの笑いは辛かったから笑っていたのだが、フミはその辺りがよく分かっていないのだろうか。いや、そんなはずはない。恐らく嫌がる自分を見て楽しんでいるのだろう。ミカはフミの隠されたSっ気を発見し、恐怖した。


その後、フミとミカは、博士に借りた寝間着を着てソファでダラダラとくつろいでいた。

こうして屋根と壁があるきちんとある場所で寝るのは久しぶりであった。2人とも道中の疲れでウトウトしている。

「寝るならベッドで寝たらどうだ」

博士は寝かけていた2人を布団へと誘導する。博士はなんだか小さな妹が2人できた気分になり、少し嬉しかった。そして、ふたりの寝顔をうっとり見てそして自分の仕事を始めた。


「昨日はありがとうございました」

2人は一泊を終した後、出発の準備を整え、玄関で博士にお辞儀をしていた。

「礼なんていいさ。こちらも楽しかったよ」

博士が笑顔で答える。2人は地面に置いた。リュックを背負い、玄関のドアを開けた。

「じゃあまた会いましょうね!」

「そうだ。行く前に君らに渡そうと思っていたものがあるんだ」

博士はそう言って白衣のポケットから一枚の紙を取り出した。地図だ。

「このまま北に向かうなら、ここに向かうといい」

「なにかあるんですか?」

「それは言ってのお楽しみだ」

博士は笑った。2人もなんだか嬉しくなって笑った。

「じゃあまた」

お互い手を上げた。別れを惜しむつもりはなかった。

こうして、2人はまた2人に戻った。






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虚の国 たるばれるーが @Talga

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