その丘で立ち続けるもの

あきる

その丘で立ち続けるもの



 赤い砂漠の入口。

 ペルという小さな村の外れ。


 過ぎ去った日々の輝かしさを胸に、決して叶うことのない思いを、彼は今も抱き続けている。



「バルサと。……貴方をそうよんでも、かまいませんか?」


 金色の髪が、風に揺れていた。

 微笑む少年の瞳は青く、まるで小さな空のようだった。


 時の流れは、残酷にもその牙をむき、二人を引き裂いた。

 

 少年の一生は、彼にとっての刹那に過ぎない。

 幻のように時は移り、彼は一人取り残されるだろう。


 ああ、出会いの日から十数年は、まるで風のように過ぎてゆき、少年は伴侶を迎える年になった。

 それは早過ぎる別れの日だ。


「バルサ。貴方は私の光だった。共に過ごした日々は、どんな宝石いしよりも美しい宝だった」


 大地に縛られた彼に自由などなく、ただ去って行く愛しい者を見送った。


 それからの日々は、長くつらいものであった。

 たった一日が何十年にも何百年にも感じられた。



 今日は、もしかしたら来てくれるだろうか?

 明日には、遠くを歩く君を見つけられるだろうか?

 竪琴を弾いて、歌を聞かせてくれるかい?



 一年が過ぎ、二年が過ぎ、十年が過ぎた。

 それは今まで存在しいきてきた時間よりも、ずっと長く感じられた。


 長く苦痛な日々を、彼は待ち続ける。

 鮮やかに思い出される日々が、輝き続ける限り。


古き良き友バルサ


 己をそう呼んだ少年の声を思い出しながら、彼は今日も独りで待っている。


 砂漠を見下ろす小さな村の外れ。

 小高い丘の上。

 四方に枝を伸ばす大樹は、今日も少年を待っている。



 永すぎる昼と夜を越えて、その丘で朽ち果てるまで、恋しい人を待ち続けるのだ。



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その丘で立ち続けるもの あきる @Akiru-05

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