第2話 緊急会議
制服の襟を正し、会議室の扉の前に立っている兵士に軽く手を上げて会釈をした。
兵士は背筋を伸ばして敬礼をする。
「他の隊長達は、全員きているのか?」
「ハッ!……レオン大尉で最後であります」
……公休日の者もいるというのに、全員集められたと言うわけか。
俺は深呼吸をして扉を軽く叩くと、静かに入室した。
目の前には魔導騎士団の団長である「ヘイムダル中佐」を中心に、円形状に囲むように机と椅子が並べられている。
これは、魔導騎士団だけが行っている独特の会議のやり方で、平素は階級による厳しい上下関係があるが、会議の際には階級を気にせずに自由に発言させる為に工夫されたものなのだ。
「……只今、到着致しました。レオン・ロシュ大尉であります」
先程の兵士と同じように、俺は背筋を伸ばして中佐に敬礼をする。
「これで全員揃ったな……大尉も空いている席に座れ。これより、会議を始める」
俺は手前の空いていた席に着席する。
隣には筋骨隆々の大柄の男、サイクス・ブラン中尉が座っていた。
中尉は俺と目が合うと、少し疲れた顔で苦笑していた。
何かあったのか?と尋ねる間もなく、中佐の話が始まる。
「……まずは、公休日や休暇中の人間もいる中で集まってくれた事に礼を言いたい。実は重大な案件が起きてしまったのだ」
隣に座っているサイクスが、小さな声で独り言を言った。
「こちとら、嫁の誕生祝いをキャンセルして会議に出てきたんだ……くだらねぇ理由だったら承知しねぇぞ」
なるほど……それが「やつれた顔」の理由か。
「先日、我がライトハイハンド王国の北側にある
途端に会議室内の空気が張りつめた。
「壁」と呼ばれる
その場所は、何人たりとも立ち入る事を許されないエルフ国との国境である。
そこにエルフが立ち入ったとなれば……場合によっては武力衝突は避けられない事態になる。
「ヘイムダル中佐……その情報は確かなものなのですか?」
聞いていた隊長の1人が中佐に質問をする。
「魔導院とも相互確認した結果、反応に誤りはない、という結論に達した。これは重大な協定違反になる……我々も「それ相応の対応」をせざるをえない。だが……」
中佐は小さくため息をついた。
「世界連合議会から現地に赴き再度調査せよ、との指令がきた。国境に近い我が国を指定してな……正直な所、耳を疑ったが」
世界連合議会……
「魔導大戦」後に出来上がった各種族の代表が取り仕切る議会だ。
本来は「こういった出来事」に対処するための機関なのだが……
もはや、設立当時の志は失われ、今や権力者達のステータスに成り下がったものと聞いている。
いわゆる、「形骸化した議会」と言うやつだ。
だが、世界連合議会で議決されたものは権限があるだけにタチが悪い。
俺は中佐に質問をした。
「
「大尉……いい質問だ。交戦は認められない……あくまで偵察が任務となる。護身用として小火器の携帯は許可されたが、エルフに対して発砲は出来ない。魔導砲の使用などもってのほかだ」
それを聞いた隊長達は、どよめいた。
隣に座っていたサイクスが怒鳴りちらした。
「ちょっと待って下さいよっ!
連合議会が弱腰なのだろう……下手にエルフを刺激して戦争を起こしたくない気持ちも分からないでもないが、不可侵地帯への侵入は「重大な協定違反」だ。
非はエルフ側にある。
本来なら武力攻撃をしても「こちら」は咎められる事はないはずだが。
「サイクス中尉……さらに嬉しくなる事を教えてやろう。今回の偵察任務に騎士団は同行せん。我々、魔導騎士団の「魔導人形」のみで対応するように命令された」
「なっ!?……それは一体っ!」
「騎士団は貴重な人材を失いたくないのだろう……レオン大尉の兄上であるへクター大佐は最後まで反対をしていたがな」
大方、貴族出の騎士団連中が同行するのを嫌がったのだろうな。
我々、魔導騎士団の大半は平民出身だ。
どちらが「捨て駒」として相応しいのかは、火を見るより明らかと言うわけだ。
「そして魔導人形も6体……つまりは2小隊のみで任務に就いてもらう。そこでだ……この危険な任務を遂行する小隊長を2名……この面子から選抜したい」
中佐は選抜した隊長の名前を呼ぶ。
「……レオン・ロシュ大尉とサイクス・ブラン中尉。魔導人形の操縦技術、経験共に優れたお前達にしか出来ん事だ。同行させる隊員は各々の判断で選んでいい」
呆れたように椅子の背もたれに寄り掛かるサイクスを横目に見ながら、俺は中佐に敬礼をした。
「レオン・ロシュ大尉……任務を承りました」
「頼んだぞ……大尉。危険な任務だが、無事にやり遂げてくれ……中尉もな」
大きくため息をつきながら、サイクスも渋々承諾した。
「アイアイサー……サイクス・ブラン中尉……任務了解」
張りつめた空気の中、緊急会議は終了する。
魔導騎士 へろぽんすけ @chunennohoshi
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