魔導騎士

へろぽんすけ

第1話 レオン・ロシュ


「レオンーー!ここに居るんでしょー?早く操縦席ハッチを開けなさいっ!」


頭の中に響きわたるようなカン高い女の声と、装甲板カバーを乱暴に蹴りつける音で俺は目覚めた。


「……眠っていたのか」


だるそうに操縦席ハッチを開くレバー操作をした際、膝に乗せていた紙が滑り落ち、足元に散らばる。


散らばった紙を集め終えたのと同時に装甲板が開くと、見知った女性が操縦席に勢いよく乗り込んできた。


「もうっ!アタシはレオ兄を探す係じゃないんだよ。みんな探してたんだから!」


「すまない……アリー。昨日の訓練で魔導人形の動作に腑に落ちない点が見つかってな。それを夜通し調べていたんだ」


俺を怒鳴り付けた女性。


アリーゼ・スタイン


名門スタイン家の長女であり、魔導人形の研究者で有名な才女である。

我がロシュ家とスタイン家は古くから親交があり、アリーは子供の時から知っている仲だ。


俺はアリーを実の妹のように接してきた。


「……左旋回時に僅かに反応が遅れるんだ。これは足の駆動部分の不具合ではなく、原因は「魔硝石」の出力配分だと考えられる。詳しいデータは、この紙に書いてまとめておいた……至急、調整を頼めるか?」


資料を受け取ったアリーは、白衣の胸ポケットから眼鏡を取り出し、熱心に読んでいた。


「むー……たしかに魔硝石の出力に僅かながらの乱れがあるね。なるほど……動力の回路設定にも検算が必要と。フムフム」


資料を見ながら独り言を呟いているアリーを尻目に、操縦席から外に出た。


夜通し狭い操縦席の中に居たせいか、外の空気が新鮮なモノに感じる。

兵器庫に並んだ「魔導人形」達を見ながら、手に持った制服の上着を肩に掛けた。


「アリー……俺を探していたと言ったな?何かあったのか?」


「あ……えっと。団長さんが各隊長を集めて緊急の会議をするって言ってたよ。何だか神妙な顔をしてさ。何かあったんじゃない?」


俺を含めた魔導騎士の隊長が全員集まっての緊急会議だと?


何か想定外の出来事でも起こったとでも言うのか。


「……了解した」


俺は煙草ヘルタールに火をつけて一服する。


「レオ兄……煙草ヘルタールは止めなって、健康に悪いよ。へクター兄さんからも言われているでしょ?体調くずしても知らないよ」


アリーは、俺に振り向かずに忠告した。


「……ご忠告感謝する。特級魔導技士及び魔導人形開発本部長・アリーゼ少佐殿」


俺は「いつもの忠告」を苦笑いをしながら受け流し、煙草ヘルタールを咥えて兵器庫の出口へと歩きだした。


「まったく……煙草ヘルタールに関しては、ほんっと言うこと聞かないんだから。変なトコ頑固だよね……第一級魔導騎士レオン・ロシュ大尉」


アリーは困った顔をしながら、兵器庫から出る俺を見送っていた。

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