『夢幻雪華』

「来やがったな!」

安い挑発である。だが、数々の言動と率直な行動力で察知していた。更には

-アルコールも含まれているかんな。流石にノッて来たぜ!-

俊足で懐に入り、拳を繰り出す瞬間!ファトプリカの眼前にSickは右拳を振り下ろす。攻撃範囲が限定され、僅かな距離が届かない。更に!拳を掴んだ

「もらったぜ!」

膝蹴りをファトプリカの腹部目掛け突き上げる!靴裏で相殺し、硬直状態と化した

「甘えよ!」

左腕と左足を回転させ、駒のようにくるりと全身を捻り、反動を利用しSickの腕を攻撃する!

「だらぁぁっ!」

掴んだ拳に握力を込め回転を戻し、脇腹目掛け左拳で攻撃!左肘で軌道をズラし、肩を左方向に倒し更に回転!空中で両足で顔面目掛け攻撃。首を振り回避した直後、槍のように突き刺す襲撃がSickの上半身を後退させた!

「ぬぉっ!」

更に空中で顔面へ連撃を繰り出す。アルコールの摂取と瞬間に頭部に負担のかかる攻撃で吐き気が伴う

-こ、コイツはマジで危ねぇ-

それは脳を揺さぶり、全身に蓄積する疲労と徐々に困憊へと誘う危険である。だが!

「うらぁぁ!まだだぁ!」

更に加速して掴んだ拳を手首で左右に回転させ揺さぶる!

-だったらどっちがやべぇか試すだけだぜ-

回転しながら互いに防御、或いは回避!見物客が更に熱気を煽り、何故か民族音迄響いた

「うおぉ~!サーカスより回ってるぜ!」

「う~み~にいきて~♪」

「やべ~しぃ~」

沢山の観客が熱狂した。互いの攻防が衝突し、均衡が崩れる。片足が膝をついた。よろめき、額に手を当てた瞬間、再び特攻するファトプリカ!

「来やがれ!」

この瞬間をSickは待った。反撃の狼煙を上げる為に、片足を直進させ攻撃!直撃寸前で踵を軸に回転し、裏拳を繰り出す!

「Justだぁぁ!!」

腕が交差した!カウンター攻撃を繰り出す

「クロスカウンターか!死角からの攻撃。やるなぁ兄ちゃん!」

野次馬の中のウエスタン風のの男が葉巻を加えにやりと笑った。その声にSickは聞き覚えがある

「んだとぉ!?」

瞬間的に左拳がSickの手首に当たり、ファトプリカの頭部を掠めた!迫る攻撃!瞬間的に頭部を突き出した

「な………なんだってぇ!」

「え?」

「やべ~しぃ~」

それは唇が重なる瞬間だった。柔らかな感触が当たりを包み………………………歓声がなりやまない

「テメ!何しやがる!?」

Sickは頭部をどけた。かくりとファトプリカは気を失う。寝息を立てた

「な………んだと?」

それはアルコール摂取による睡魔に避けられない眠りだった。周囲は意味が解らず沈黙してしまう

「さしずめ、疲れちまったか。いよぉ兄さゃん」

睡眠をしているファトプリカにカウボーイハットを被せた。見上げるSickは安堵に近い呆れ顔で笑う

「んだよ。まさか、ここで面合わせかよ」

「俺の家で派手に暴れたみたいだな。まぁ、元気そうだな」

にやりと葉巻を加えて笑う。無精髭と体躯に恵まれた中年の男である。渋く、乱雑な髪がウエスタンの服装とよく似合う。ワイルドである

「ラフバルガ。ちっと疲れちまった」

「じゃあ、景気にウイスキーで乾杯だな」

分厚いラフバルガの手を掴み立ち上がるSick

ファトプリカの盛大な鼾が周囲の歓声をかき消した



執事がTANATOSの応答を受け入れ扉が閉まった。正面にはソファーに座るティオーレと向かい合う。淡々と丁寧に書類整理を終わらせ、一息ついた

「すまないな。少々急用が相次いでいた」

「構わない。私が尋ねたのが礼に欠けただけだ」

噛み合うのは性質だろう。だからこそ邸内へ招き入れた。ティオーレはペンを置き、視線を同じ位置で会話した

「この世界は降り積もる冬の静けさのようだ」

「詩にまつわる怪奇か?」

「現実の淘汰。結晶のように鮮やかな跡が静かに消えていく………夢が抱き心が砕かれ魂が果てた時代を担う若き精鋭達は、権力と強欲で焼き尽くされた。変わらない」

「歴史は繰り返されるか」

TANATOSはティオーレの背後の窓から映る豪雪を眺め、部屋の角の暖炉を見つめた。ティオーレは立ち上がり、机の引き出しからバインダーファイルを取り出し、TANATOSへ手渡しした

「痕跡は深々と刻まれている。これは世界情報機密ビッグ5の1つ。テレンス報告書」

報告書を隅々迄拝見し、克明に記された事件の概要を理解した

「これは?共通性があるのか」

「未確認生物姿表の前兆。現象兆候ABADDON(アバドン)。ある法則性に基づいて規則性を強制的に引き起こし、人為的に発動させる事を可能にした。そして」

珈琲のティーカップに添えられた角砂糖を敢えてテーブルに置き、粉砂糖のスティックを手前にクロスして置いた

「共通は分かるな?」

「髑髏の象徴」

「我々人間と未確認生物は脳の構造が同じだ。但し、相関性が異なる事は2つ」

粉砂糖の封を切り、珈琲の中に入れた

「1つは骨組みで構成されていない。複雑に構築された粒子のようなエネルギー体だ。つまり、骨格という概念よりも外郭は皮膚を模した、精神を具現化した高次元生物。つまりは脳を除けば完全な精神体という事実」

角砂糖を持ち、指先で触れればテーブルに徐々に落ちて、形を失う

「2つ。脳の伝達で精神思考に直接干渉し、強制的なマインドコントロールにより周辺の生物を操作し、互いに殺し合いをさせた。極めて合理的な殺戮。報告結果は明解だ」

「これは驚愕だ。即ち未確認所在地の………CIPHERD-CITYは」

「あの場所はアメリカの空軍基地で厳重保管されていた未確認生物と我が国で捕獲された地球外生命体の欠損体を密裏で引き渡し、研究成果で結合されたハイブリッド種族。人類史でも【禁忌】とされた冒涜。通称」

珈琲に残り1つの粉砂糖を入れ、溶け込んだ糖質を見つめた。最後の1ページをめくるTANATOS

「非刑罰泥酷実証スカルザ・ミッシア。その完成体があの未確認所在地を創造した」

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