第14話 エピローグ


 それから。

私の幻覚は嘘のように消えて、私はまたふつうに大学に通えるようになった。もうあの、黒髪にも死ねという声にも脅えることはない。

それが嬉しくて、たまらなくて。ほんの少し、黒髪にだけには名残惜しさを感じた。呪いは全部華子が持っていってくれたんだと思うことにした。

 学校でもふつうにしている私へ、最初こそ煙たがっていた人たちも次第に挨拶してきてくれるようになった。このあいだは

「よかったら、一緒に食事に行かない?」

 と誘ってくれる子も出来た。私は喜びを満面に表して頷いた。別な大学に一緒に遊びに行く友達も出来た。

 それと。

本当に偶然に、太一に会った。太一は専門学校の時に学生婚していたとは聞いていた。私の大学のある地域に住んでいるとも。おなかのふくれた女の人を連れて、私が友と歩くその道を歩いていた。私たちは一瞬目があったけれど、互いに目礼するにとどめた。

 これから彼に何が起こるんだろう。私に何が待っているんだろう。

 私には分からない。

けれど私にはわかることもある。

私たちには確かに友があって、青春があった。それは儚く消え去っていってしまったけれど、確かにあったのだ。実在していた。もう二度とあがいても手の届かぬところに、実在して、思い出として今も、ある。

「美佳―!!」

 学校途中の道で、私に手を振ってくる友たち。みんな笑顔だ。いい顔つきしているな。

 ねえ、華子。

私たちはもう二度と出会えないんだね。

だけど私はもう、過ぎ去った日々を惜しむことはやめる。いつか、どこかでもう一度会うために、進んでいく。今はただ何も見えない、けれどただひたすらに。

「みんなー! 今行くー!!」

 私は空いっぱいに満ちる日の光を浴びて、駆けだした。

                 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

亡霊たちは踊る @ichiuuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る