俺と駄女神の生活はまだまだ続いていくことになりました

 ルビィの一件から一夜明けて、ようやくいつもの教室にいつものメンバーが揃った。

 どいつもこいつも怪我も後遺症もなし。俺がほぼ収集付けておいた。


「なんかずっと離れていた気がするわ」


「この空気。この机と椅子。すべてが懐かしいですわ」


 サファイアは融合を解き、人間組は自分の世界に帰っていった。

 異世界の記憶を完全に消し去ることもできたが、龍一やリリカはそれを望まなかった。

 出会った思い出と、繋いだ絆を忘れないためだ。


「同感です。やはりこれこそが私達の日常ですね」


「帰ってきたぞー! って感じよね!」


 融合した異世界を分離することは、さらなる混乱を生む。

 だからあまりにも危険と平和が混ざらない限りは、様子見も兼ねてそのままとなった。

 本人たちは結構乗り気だったよ。


「一時はどうなることかと思いましたが、終わってほっとしましたわ」


 虚無は完全に消しておいた。

 もう残骸すら残っていないし、完全に生まれたという歴史ごと葬った。

 昔のパーティーにも手伝ってもらい、久々の同窓会みたいになりやがってな。

 相変わらず楽しく人生を謳歌しているようだ。


「長いこと戦いっぱなしだったからな。おつかれさん。しばらくは戦闘の授業は無しにしておくよ」


「やったー!」


 女神女王神……サファイアの親の方は無事だった。

 安否は常に確認していたが、ごく普通に客室に入れられていただけ。

 もし現体制が正しいという結論になった場合、指導者が消えるのはまずいという発想だろう。

 ルビィの合理的な判断がプラスに働いた。


「助かります。正直しばらく戦いは拒否したいところでしたので」


「ぐったりですわ」


「俺もしばらくいいや。座学中心でいこう」


「はいわたしが来たわよー! ひれ伏しなさい勇者よ!」


「お母様?」


 女王神が入ってきた。どうしてお前らはうるさいんだ。

 親子揃ってうるさい。落ち着いて欲しいわ。


「静かに入って来い。今日はお前が主役じゃないだろ」


「どういうことですか?」


「転校生を紹介するわ!!」


 だから俺が話す予定だったろうが。

 こいつらは本当にアドリブで生きやがって。


「入って来てー!!」


 黒板の前まで歩いて来たのは。


「ルビィ!?」


「そういうことだ」


「今日からみんなと一緒にお勉強することになったルビィちゃんよ!!」


 はいルビィです。手続きに立ち会ったし、色々と事情説明もした。

 そして入学が決定したのだ。


「説明を求めます」


「まずごめんなさい。私にはあれしか無かった。結論を出すことが存在意義だった」


 ぺこりとお辞儀。ルビィは完全にそれ専用に生み出された女神で、かなり複雑な事情がある。

 ある意味昔の女王神と女神界の決定でもあったわけだ。


「とりあえず昔の女王神に会わせた」


「でもって、これからどうするかを話し合ったわ!!」


「許されたんですの?」


「母さんは許すというより、謝っていた。大変な使命を押し付けてごめんなさいって」


 また会えたことを喜んでいた。

 下手すりゃ二度と会えない使命だからな。

 たまには駄女神も役に立つじゃないか。


「親子揃ってわんわん泣いてたわね」


「それは言わないでやれよ」


「過去の女神界は過去のもの。今の世界には勇者もいる。女神もいる。結論は焦らなくてもいい。ゆっくりと、みんなでハッピーエンドを目指しましょうって、お母様が」


 この結論はルビィが母親に言い出した。

 心境の変化があったのだろう。いい傾向じゃないか。


「いいの? ルビィの力だって、女神界と異世界の融合とかのトラブルだって」


「ルビィの起動システムまわりの問題だってありますわ」


「俺がどうとでもした」


「もうし終わったんですのね」


「約束したろ。終わったら全部どうにかしてやるって」


 きっちり約束は果たした。勇者だからね。

 生徒との約束は破らんよ。


「正直今でも信じられない。半日で片付くような問題ではなかった」


「勇者ってのはそういうもんだ」


「違うから信じちゃダメよルビィ」


「わかってる。この人はおかしい。凄いけどおかしい」


 せっかく親子の感動の再開だったのだ。水を差すような事後処理なんぞさせたくなかった。

 だもんでマジでやった。勇者の本気なめんなよ。


「私には圧倒的に経験が足りない。歴史のコピーはできても、実体験ではない。だからここで学ぶことになった」


「合理的ですね」


「ほっとくわけにもいかんだろ。俺が一人ぼっちで死のうとしているやつを見捨てることは無い」


「そんなわけでこっからあと一年半くらいはよろしくね?」


「……は?」


 俺の任期って一年限りじゃなかったか。

 いつの間にか書類が用意されている。

 なんでそういうとこだけ根回しいいんだよこいつ。


「だってルビィちゃんだけすぐ終わっちゃったらかわいそうじゃない! 無責任よ! 連れてきた責任取るの! 女王神の決定だからね!!」


「別にいいけどさ……先生も楽しくなってきたし。ルビィもそれでいいか?」


「構わない。勇者に学ぶことは多い。一緒にいる時間はできる限り多くしたい。それが私の願い」


「んん?」


「おや?」


「ああ……そういうことですの……」


 生徒三人の視線がルビィに集中している。

 まあ前向きなセリフが出てきたら驚くかもな。

 ここまで積極的に学ぼうという姿勢には俺も驚いた。


「あぁ……これは伝わっていませんね」


「先生は本当に先生ねえ……」


「がんばりましょうルビィ。わたくしも協力いたしますわ」


「助かる」


 よくわからん団結力が築き上げられていく。高速で。


「仲良くなってんならそれでいいか」


「あんたしまいにゃ刺されるわよ」


「誰にだよ」


「…………がんばってサファイア。応援するから。女王神のお仕事しらばっくれて来るから」


「来んなや。そういうことするから駄女神が増えるんだろうが」


 ルビィ以外がものすっごい同情の目だ。俺が何をしたというのか。


「はいはい授業するぞ。机と椅子は同じやつな」


 同じやつをもう一式出してやる。

 生徒四人か。まあ成長しているし、俺もノウハウができつつある。

 なんとかなるだろう。


「授業参観したい!」


「仕事しろって!!」


「あんたが全部やっちゃったじゃない。もうずっとニートできるわよ」


「ちくしょう本気出しすぎた……」


 駄女神に休む口実を与えてしまった。

 最悪居座るぞこいつ。さてどう切り抜けたもんか。


「じゃあ六人でできる遊び考えましょう」


「完全に遊びっつったな!?」


「ロシアンルーレットとか?」


「遊びじゃねえだろ!!」


 なんか懐かしいなこの感じ。そうそう、俺たちの日常はこんなだった。

 いいことなのかわかんねえけど。


「あれよ、ロシアン寿司ルーレット。ふぐ貰ったからやりましょ。勇者に捌いてもらって」


「不安しかねえわ……しかも捌くの俺かい」


「興味深い」


「まずふぐの毒の部分でお寿司を六個作って、一個だけわさびがめっちゃ入ってるのよ!!」


「毒の方なんとかしろや!!」


 くっそ油断した。こいつらまだまだ駄女神だ。

 教育プラン練り直しだよこの野郎。


「実に愉快だぞ駄女神!」


「ジン?」


「また会ったわね先生。体験入学に来てみたわ」


「教室に来るのは初めてですね」


 ジンとリリスにビアンカがいる。今はソレイユと名乗っているようだ。

 机と椅子を自前で用意してやがるじゃないか。


「見習い勇者を続けるんじゃなかったのか?」


「独学より習ってみようかなって。来てもいいって言っていたでしょう?」


「そりゃ言ったが……」


「リリス様の行く場所が、私の居場所です」


「ジンは?」


「無論リベンジだ!!」


「だから来るのがはええよ」


 双方帰る気配ゼロでございます。

 さてどうしたもんかね。


「では早速取材するデース!」


「また先生のご指導が受けられる。なんという僥倖!!」


 美由希とクラリスが来ました。なんか今日人多くないですかー。


「じゃあ今日の給食はカレーだね」


「わたしとヘスティア様で作りますね!」


「楽しみです」


 ヘスティア、リラスト、リーゼだ。なんなの示し合わせて来てんの?


「生徒より見学が多いだろこれ」


「細かいこと言わないの」


「いつものようにやっていきましょう」


「どこまでも先生についていきますわ」


「しょうがねえな……よーし今日だけ特別授業だ! しっかり聞くように!」


「はーい!!」


 これからも俺たちの日常は、俺たちらしく進んでいく。

 今はこんな日常が好きで、大切だと思うから、精一杯先生やっていこう。

 この駄目だけど愛すべき女神たちとともに。



 最終章――――――完。

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異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています 白銀天城 @riyoudekimasenngaoosugiru

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