有る時の中のコツメカワウソ

Flat_Stove

有る時の中のコツメカワウソ

 広大なジャパリパークの一角、じゃんぐるちほーには毎日毎時を思いついたことについやす、遊び好きのフレンズがいました。

 彼女は――元の性別は分かりませんが――名を、あるいはその種族をコツメカワウソといいました。彼女はその、コツメカワウソのフレンズだったのです。



 コツメカワウソはいつも、楽しそうに日々を過ごしていました。


 じゃんぐるに住む他のフレンズ達も、コツメカワウソが毎日、楽しそうに遊んでいるのを見ていました。

 コツメカワウソも、毎日たくさん遊んでは、たーのしー! と口癖のように言っていました。


 コツメカワウソがつまらなさそうにしている所を見たフレンズは、誰もいませんでした。






 あるとき、コツメカワウソは川から顔だけを出して泳いでいるフレンズに出会いました。彼女は名をジャガーと言いました。

聞けば、彼女は川を泳ぐことの出来ないフレンズ達のために川渡しをしていると言うのです。よく見ると、彼女は何かを曳きながら泳いでいるように見えました。

 

 コツメカワウソにはそれが何かは分かりませんでした。

 

 コツメカワウソは、かつてちゃんとした形で存在していた「それ」を知ってはいましたが、変わり果てたその形は、コツメカワウソの記憶には響かなかったのです。






 あるとき、コツメカワウソは、ジャガーが曳いていたものに似たものが川から顔を出しているのを見つけていました。それはちょうどいい角度がついており、コツメカワウソは考えることもせずに早速上を滑って遊び始めました。


 それから、日が暮れるまでコツメカワウソはそこで遊んでいました。川を通り掛かるフレンズもいて、それはそれは楽しそうに遊んでいました。

 

 そこは、コツメカワウソの「遊び場」になりました。







 それからけっこうたったあるとき、コツメカワウソがいつものように滑って遊んでいると、見知らぬ二人に声をかけられました。彼女たちは、それぞれの名をサーバルとかばんと言いました。ボスも、その傍らにいました。

かばんによると、サーバルとかばんはアンイン橋に行きたいらしいのですが、二人は泳げないようでした。

でも、コツメカワウソは三人を連れて行くことができません。四人はジャガーを待って、乗せていってもらうことにしました。



 コツメカワウソは彼女たち四人と過ごした時も、もちろん楽しく感じていました。

「ばす」というとても重いものを持ったり、橋がかかっていた場所に、フレンズの通り道を作ったり、「ばす」が動くのを見たりと、そういったこと全てがコツメカワウソにとって楽しく感じていました。

 でも、二人はとしょかんに行くので、さばくの方に旅立っていきました。


 コツメカワウソはそんな二人に「まったねー!」と言いました。









 またそれからけっこうたったあるとき、いつもの場所で遊んでいたコツメカワウソは、血相を変えたジャガーにかばんが危険な目にあっていることを伝えられました。

聞けばその場所は、さばんなを越えた先にある、海に近いもりであるとのことでした。


 コツメカワウソは、急いでジャガーについていくことにしました。なぜなら、かばんは、フレンズ達にとっても、コツメカワウソにとっても「フレンズ」だったからです。それに、ジャガーがボスから聞いたことによると、パークの危機でもあるとのことでした。


 コツメカワウソは、はじめてパークのことを考えました。コツメカワウソは、パークのことが大好きでした。


 コツメカワウソは、自分の中になんとも言えない感情が有ることを感じていました。しかし、その時のコツメカワウソにはそんなことはどうでもよかったのです。









 それから一ヶ月ほどたったあるとき、じゃんぐる中がにぎやかなことにコツメカワウソは気づきました。聞けば、かばんが何のフレンズか判明したことによるお祝いを「ゆうえんち」とやらでするとのことでした。

 コツメカワウソはもちろん行くことにしました。着いた先にはジャガーや、じゃんぐるの他のフレンズ達もいます。中にはコツメカワウソの知らないフレンズ達もいました。コツメカワウソは、これからのことをとても楽しみに感じていました。



 

 かばんは、外の世界にヒトを探しに行くとのことでした。コツメカワウソはそのことをちょっぴり切なく思いました。でもコツメカワウソは切ない、という言葉を知りません。

しかし、コツメカワウソは気づいたのです。

自分があの時感じたのが切なさ、と言うことを。

二度と会えないと感じたが故であることを。











 あるとき、コツメカワウソはまたいつもの遊び場で遊んでいました。コツメカワウソは少し考えごとをしながら遊んでいました。『たーのしー!』も口には出していませんでした。

 しかし、コツメカワウソはその後数分もすると、また楽しそうに遊び始めました。

それはけっして、かばんやサーバルのことをわすれたからではありません。コツメカワウソは信じることにしたのです。


 コツメカワウソは、あのとき、

二人がじゃんぐるを出ていくときに「まったねー!」と言いました。



 コツメカワウソは無意識に自分の言葉を信じることにしたのです。もちろん、そんなことを信じなくても心のどこかでは絶対にまた会うことになると思っているかもしれません。でも、コツメカワウソだってかつてのたのしかったことを考える時があるのです。きっと、またあのように遊べると、思ったのかもしれません。






 コツメカワウソは、たのしそうに遊んでいます。でも、もしかしたら、コツメカワウソは何も考えていないわけでは無いのかもしれません。でも、コツメカワウソはたのしそうに今このときも遊んでいるのです。











『わーい!たーのしー!』




 





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