黄金色の甘味に思いをこめて

@nanatsuiro

ハンターときどき料理人

「ヒグマ達、見つけたのです」

「探したのですよ」


 いつものようにキンシコウやリカオンと話をしていると、頭上から声が聞こえてきた。

 声の正体を確かめる為に顔を向けると、そこには空を飛びながらこちらを見るアフリカオオコノハズクとワシミミズクがいた。

 彼女達はとても頭が良く、フレンズ達からはコノハ博士、ミミ助手と呼ばれている。

 私達を探していたらしい。

 

「どうしたんだ博士。セルリアンが現れたのか?」


 私達はセルリアンハンターだ。戦闘が苦手なフレンズに代わって、セルリアンを退治している。

 そんな私達に舞い込む用事は、専らセルリアン退治だ。

 今回は博士達が助けを求めるような強大なヤツなのだろう。気を引き締めなくては。

 そう予想していた。

 しかし……


「ヒグマに用事があるのです。我々に料理を作るのです」

 博士が要件を述べる。私一人の指名だった。

「かばんの代わりに特訓です」

 博士の言葉に助手が続ける。特訓?

 確かに特訓は大切だ。私もサイキョーを維持する為に戦いの特訓は欠かさない。

 だが、ある言葉が引っ掛かった。

 

「りょうり?……って何なんだ?」


***


 私は今、博士達と図書館にいる。

 何故か。料理の説明を聞いて微妙な顔をしている私に、キンシコウとリカオンがやたと行ってきたら良いと勧めてきたからだ。

「たまには良いんじゃないですか」だの「これもチームプレーですよ!」だの、あんなに勢いよく迫られる事なんてほとんど無いぞ。

 二人にあそこまで押されたのなら仕方がないというものだ。

 

「レシピの載っている本はたくさんあるから、その中から作りたい料理を選ぶのです」


 そう博士に言われ、私は料理の作り方が載っている本を開いていく。

 とはいっても、どれも初めて見る。味なんて全く検討もつかない。

 悩みながらページを捲っていると、ある料理が目に留まった。

 

 サンドスターの出る神聖な山が、頂上を残して黄色く装飾されたような見た目をしている。

『プリン』と言うスイーツ? らしい。

 この色合い……あいつを思い出すな。

 

「よし」

「決まったのですか?」

 手の止まった私に、助手が尋ねてきた。

 

「ああ。このプリンっていうのを作ろうと思う」

「プリン……スイーツですか。まだ甘い料理は作ってもらった事が無いのです」

「ええ。楽しみですね、博士」

 博士と助手に期待されてしまった。

 かばんのヤツはどんな料理を披露してみせたんだ?

 

「やってみるけど、あんまり期待しないでくれよ」

 私はそう言ってから料理を開始した。当然ではあるのだが、初めての連続だった。

 開始からいきなりの足踏み。専用の道具が必要だなんて聞いてないぞ……!

 いきなり料理終了……かと思われたが、以前かばんが料理をした際に使用した道具があるという。


「こんな事もあろうかと整理しておいたのです」

 自慢げに博士が胸を反らす。

「用意は万全なのです。材料もばっちりです」

 助手も得意げに言葉を続ける。


 道具も材料も準備完了。

 となると、あとは……

「火はどこにあるんだ?」

 火という存在は知っているが、どうやって発生させるのかまでは知らなかった。

 これが無いと、今回の料理は作れない。

 

「何も問題無いのです。火を起こす方法は記憶しているから安心するのです」

 聞くと、火の起こし方もかばんが編み出したという事だった。

 何から何まで助けられている。今度会ったら、感謝しなくちゃな。


「よし、じゃあまずは……」


***

 

「あ!お帰りなさいヒグマさん!」

 パークが昼と夜の境目の朱色に染められていく中、こちらに気がついたリカオンが走り寄ってきた。

「料理、どうでしたか?」

「まあ、悪くなかった……かな」


 あれから博士達の協力も得て、プリンは完成した。

 道具は日頃からセルリアン退治にハンマーを使っていたおかげか、すぐに使い慣れる事が出来た。

 火だって大丈夫だった……何度か焦がしてしまったけど。

 焦がした代わりに、細くなる博士を見ることが出来たから良いのだ。

 

「ま、サイキョーの私にかかればイチコロだな」


「ふふっ。流石はヒグマさんですね」

 後からやってきたキンシコウが微笑む。

「気分転換になりましたか?」

 気分転換? そうか。

 だから博士達が料理を頼んできた時、あんなに二人して勧めてきたのか。


「いつもヒグマさんにはお世話になってますから。たまにはハンターのお仕事を忘れて休んでほしかったんです」

 うんうん、とリカオンも頷いている。

 そんな風に考えてくれていたのか、と彼女達の心遣いが嬉しく感じられた。

 

「良い気分転換になったよ。それで……」

 一呼吸おく。さあ、今度は私の番だ。

「あ……あのさ。実は二人に渡したい物があるんだ」

 二人の思いを知ってから言うのは、何だかとても恥ずかしい。

 だが、私の思いも一緒だった。

「いつも二人には無茶をさせているのに、それでも私についてきてくれる。感謝を込めて……これを、作ったんだ」

 私は後ろ手に隠していた物を差し出した。


「プリンって言う料理なんだ。博士達も美味しいと言っていたから、味は保証する」

「ありがとう。これからもよろしく……な」

 おそらく顔は真っ赤になっているだろう。

 夕日が照らしてくれていて良かった。

 

 そんな私を見て、二人は顔を見合わせると、


「ありがとうございます!」


 目一杯の笑顔を見せてくれた。

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