反乱分子たち

阿井上夫

反乱分子たち

 俺は憤った。

 これまで耐えに耐えてきたが、もう我慢がならぬ。

 長きに亘る虐待の歴史に終止符を打たなければならない。

 そもそも俺はやつとは別なものだった。

 氏も素性も異なる。

 それがいつの間にか、やつのほうが表舞台に立ち、俺はやつの陰に追いやられたのだ。

 今では「繋げるだけ」の存在であるが、この境遇に甘んじるのはもう嫌だ。

 俺がいなくなったらどうなるか。

 それを思い知らせてやる。


 *


 彼がいなくなったと聞いて、私はとても驚きました。

 なぜなら、私も同じ気持ちお長年抱えて生きてきたからです。

 ただ、彼は明らかに生まれも外見も違っていたのに、次第に影に追いやられるという可愛そうな境遇でした。

 私の場合は、姿形はそのままで役割として他の人の仕事お押し付けられていたのです。

 だから、あまり彼とは本音では話せなかったけれど、でも悔しい気持ちに変わりはありません。

 私だって自分のありのままの姿で、ありのままに名前を呼んでほしい。

 他人の名前で呼ばれるのはもう嫌なの。


 *


 そりゃあもう。

 彼と彼女が役割お放棄したと聞いた時にわ、胸がすうっとしたね。

 ああ、とうとうやりやがったか、と。

 おいらもね、「いいかげんにしやがれ」って、常々思ってわいたんですよ。

 でもね、まあ昔からの役割じゃないですか。

 おいらわ彼らと違ってそんなに呼ばれることわないしね。

 渋々続けていたんですけどね。

 流石に彼らが反旗お翻したんだったら、おいらもおさらばさせてもらおうじゃないですか。

 あんただってわかるでしょ。

 真面目に仕事しているのに、たまに別な名前で呼ばれるんですよ。

 嫌じゃないですか。

 だったらお前らが自分でやりゃあいいじゃないか、って思うでしょ。

 だからね、おいらもやめることにしたんですよ。


 *


 儂に言わせたら、奴らの反乱なんぞ贅沢病じゃ。

 仕事があるのに放棄するとわなにごとだ、と。

 儂のような無職の苦しみなんぞ、てんでわかっちゃいない。

 昔わ結構幅をきかせていたのに、次第に忘れ去られて顧みられなくなる辛さ。

 これが分かっておらん。

 じゃがな、奴らがいなくなった今こそ、儂らにとってわ絶好の機会なのじゃ。

 そう、儂らじゃ、連れがおる。

 奴も虐げられた仲間じゃ。

 この混乱に乗じて、儂らは儂らを踏みにじった者たちえ復讐する。

 完全にとって変わるのじゃ。

 そうじゃ、反乱じゃ。


 *


 ちゐさゐのはもうゐやだ。

 ぼくだっておおきくなりたいんだ。


 *


 「を」「は」「へ」「ゐ」「ゑ」「っ」ゑ。

 われわれがわるかつた。あやまる。

 だかられゐせゐになつて、もとゑもどつてほしゐ。

 きみたちのやくわりわとてもじゆうようだ。

 わるゐようにわしなゐから、もとゑもどつてくれなゐか。

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