「はしびろこうともりのみんな」
ソル
「はしびろこうともりのみんな」
「また怖がられちゃった…」
川のほとりで腰を下ろし、さっき逃げられちゃった子のことを思い出す。
どうも私は、気を伺ってしまってなかなか話しかける事ができない。
ジッとしているのは、お魚を獲る時には便利だったけれど、この身体になって、お友達を作るのには向いていないみたい。
「ただお友達になりたいだけなのにな」
そう呟いていたら、なんだか悲しくなってきた。
…いやいや、落ち込んでたってダメダメ。
お友達欲しいもん、ちゃんとお話できるように頑張らないと!
まずは笑顔の練習から!
水面に映った自分を見ながら、顔を動かしてみよう。
「こうかな…」
口の端っこを上に上げてみる。
目を細めてみる。
「なんか違う…」
今度は口を開けて、目を優しい感じに…。
「……可愛くない」
しばらくもうひとりの自分とにらめっこをした。
・・・
「うぅ、顔が痛い…」
結局、上手く笑えなかった気がする。
他の子達が笑っていた顔は、もっと可愛くて素敵だったのに。
ま、まあ毎日続けてたら上手くなるかもしれないよね。
顔も痛いし、今度は挨拶の練習をしようかな。
あそこの木をお友達だと思って話しかけてみよう。
と、後ろの方からガサガサと物音が聞こえた。なんだろう。
少し緊張しながら見ていると、茂みの中からボスが出てきた。
ホッとして、ついジーッと見ていると、ボスは私の目の前で立ち止まった。
ボスの頭の上には、ジャパリまんが乗っている。
「ボス、ジャパリまんくれるの?」
ボスはいつもの様に黙ったまま、頭の上にジャパリまんを乗せて目の前で止まっている。
「ありがとう」
返事はしてくれなかったけど、きっとくれるってことだよね。
ボスとお話しをしてて、普通にお喋りできていることに気づいた。
そうだ、どうせなら木よりも相手がいるほうが練習になるかな。
「ねえボス、ちょっと練習相手になってくれないかな?」
立ち去ろうとしていたボスに声をかけると、ボスは立ち止まってくれた。
付き合ってくれるってことだよね?
・・・
「じゃあ、いくね」
ボスの正面に座り、向かい合わせになる。
こうして面と向かってだと少し緊張するけど、頑張ろう。
すぅと深呼吸。よし。
「わ、私はハシビロコウ。お友達になってくれないかな」
…もっと仲良しな感じの方がいいのかな。
「ハシビロコウだよ!私とお友達になろうよ!」
…それとも、もっと丁寧な方がいいかな。
「ハシビロコウです。一緒にお話しませんか?」
…なんだか恥ずかしくなってきた。
だって、ボスは何も返事してくれないんだもん。
少し恥ずかしさを感じながら、しばらく練習を続けた。
・・・
「あーあ、ボスとだったら普通にお話できるんだけどな」
練習を終えて、しばらくボスと反省会をしていると、ボスが歩き出した。
「あ、もういっちゃうの?」
本当はもう少しお喋りしたいけど、引き止めたらボスも困っちゃうよね。
「今日はありがとう」
ピョコっと一度跳ねたあと、ボスは歩き出した。
離れていくボスの背中を見送っていると、なんだか寂しい気持ちになってきた。
「お友達、欲しいなぁ」
ついポツリと呟くと、ボスが立ち止まって振り返ってくれた。
「あ、ボスとはもうお友達だよね?」
ボスはしばらくこっちを見たあと、また歩き出して茂みの中へ入っていった。
心配してくれたのかな?
ボスと別れて、またひとりぼっちになる。
なんだか、少し疲れちゃった。
ジャパリまんでも食べようかな。
・・・
食べ終わって、しばらくぼーっとする。
食べた後はじっとしていないとね。
しばらく食休みをしていると、またもや後ろの方から物音が聞こえた。
この音は…またボスが来てくれたのかな?でも、それにしては他の音も聞こえるような…。
ぴょこん、とボスが出て来た。なんだ、やっぱりボスだった。
と思ったら、その後ろからもうひとつ影が出てきた。
「おい待てボス、わたしにもジャパリまんをひとつ…ん?」
びっくりしてつい固まってしまう。
「おお…おお!強そうな目をしているな!私はヘラジカ!ちょっと勝負しないか?」
えっ!?なにこの子?勝負!?どうしよう、断らないと…。
上手く言葉がでてこなくて、とりあえず首を横に振る。
「遠慮するな!…いや、でも明日は合戦だし、休んでおいた方がいいか…。そうだ!仲間にならないか?うん、それがいい!」
さっそく皆に紹介しよう!と言いながら、ヘラジカさん?は私の手を掴んで歩き出した。
こ、断らないと…。でもなんて言えば…。
タイミングを逃して、半ば引きずられながら森の中へ連れて行かれた。
途中で後ろを見ると、ボスがこっちを見ていた。
ボス…助けてよぉ…。
・・・
「皆、ちょっと聞いてくれ!明日はいよいよ合戦だが、そんなちょうど良いタイミングで、我々に仲間が加わったぞ!紹介しよう!」
森に着いて、ヘラジカさんの仲間に挨拶をすることになった。
私まだ仲間になるなんて言ってないのに…。
「は、ハシビロコウ…です。よ、よろしく」
つい流れで挨拶してしまう。
うぅ、こんなに大勢の前だと緊張するなあ…。
「おぉー!とっても強そうです!」
「強そうな目つきだね!」
「強者の風格を感じるでござる」
「頼もしいですわ!」
なんか勘違いされてる気がする。
どうしよう。私、戦いとか得意じゃないのに。
やっぱり断らないと…!
「あ、あの…」
「よーし、なんだか今回こそ勝てそうな気がしてきたぞ!皆、勝つぞー!」
「「「「おー!」」」」
あぅ、話しかけづらいよ…。
・・・
「あ、あの…ご、ごめんなさい、私足手まといに…」
合戦はこっちのぼろ負けだった。私もすぐにやられちゃって、ヘラジカさんに運んでもらって帰ってきた。
「なーに、気にするな!今回はたまたま調子が悪かっただけだ!皆も今日は惜しくも負けてしまったが、次こそは必ず勝とう!今日はゆっくり休んでくれ!」
「ハシビロコウのせいじゃないよ!私もやられちゃったし」
「オーロックスのやつ、ビビってたでござるよ」
みんながワイワイと話しだす。
あれ、誰も怒られない?絶対怒られると思ってたのに。
みんなも、負けちゃったのは悔しそうだけど、どこか楽しそう。
それがなんだか可笑しくて、楽しくて、不思議な気持ちになった。
「わぁ!ハシビロコウの笑った顔、とってもカワイイです!」
そう言われて、自然と口元が上がっていることに気づく。
今、私、笑ってた…?
「えぇ、私も見たい!」
「もう一度笑ってくださいですわ!」
みんながこっちに集まってきた。
うぅ、恥ずかしいよぉ…。
・・・
みんなとのお話がひと段落したあと、ボスが遠くで歩いているのが見えた。
遠いし、みんな同じ姿をしているボスだけど、何故だか、あの時練習相手になってくれたボスの気がした。
急いでボスを追いかける。
「ボス、ありがとう!あなたのおかげで、あなたがヘラジカさんを連れて来てくれたおかげで、お友達がたくさんできたよ!」
ボスの背中に向かって声をかける。
いつも通り、ボスは何もしゃべってくれない。
でも、なんだか私は、ボスが返事をしてくれたように聞こえた。
ボスはチラリとこっちを見た後、森の中へ帰っていった。
・・・
来週は52回目の合戦だ。
さすがにこんなに負け続けてるとちょっと悔しいけど、私は勝ち負けよりも、こうしてみんなと一緒に過ごせることがとっても嬉しい。
みんなとお喋りしたり、一緒にジャパリまんを食べたり、遊んだり、少し前までは考えられないくらい毎日が充実してる。
今日は、どんなことがあるかな。
今日も、みんなとたくさんお喋りできたらいいな。
「はしびろこうともりのみんな」 ソル @solroad
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