みんなが主人公

まや2

そんなあいつも救世主

「セルリアンめ、かばんさんを離すのだ! かばんさんの危機なのだ!! かばんさんはパークになくてはならない大事なひとなのだー!!!」



「……博士、どうせあいつに作戦なぞ理解できそうにないので、目の前にだけ集中できるようとりあえず足止め組に放り込んでおきましたが、意外にも結構な時間を稼いでくれているのですよ。」

「どうやらかばんを救いたい気持ちだけは、群れの中でもサーバルに次いで飛び抜けて強いようですね。それが種の限界を超える攻撃を生み出しているようなのです。やはりこの作戦と編成を立案した我々は賢かったのです。」

「……。ですが、あれ以上の全力を出されても却って困ることになるのです。なにせ気性が荒いくせにあいつの真の野生は攻撃向きでは――」

「!! まずいのです、あいつの手が光り出したのです! 早く止めるのです!!」


「フェネックもサーバルも、みんなもがんばってくれてるのだ! かばんさんはこのアライさんが絶対に助けるのだ!! 大好きなひとたちを苦しめるものは全部まとめてアライさんが洗い流してやるのだーー!!!」


「……博士、一足遅かったのです。救いの想いが溢れすぎてか、あいつの治癒の野生が無意識に解放されてしまったのです……。」

「これではセルリアンの傷を治してしまって折角の皆の攻撃も水の泡に――!? 何か様子がおかしいのです!?」

「力があの頑強なセルリアンを突き抜けて、かばんだけに届いて包み込んでいるのです! このような野生は見たことがないのです! 先ほどまで今にも消え去りそうだったかばんの輝きが力強さを取り戻してきているのです!」

「いくらかばんの奪還のみが目的とはいえ、あのセルリアンが相手ではわずかな手加減も命取りなので、勢い余ってかばんを傷つけてしまう恐れだけがこの完璧な作戦の唯一の不安でしたが……どうやら綺麗に洗い流されたようですね。」

「これで、もしもの時に全員に恨まれる覚悟で最後の一撃役に志願したであろうヒグマに伝えてやれるのです。安心して今まで抑え込んでいた全ての野生を解放し、かつての仲間たちの無念を晴らしてやるのですよ、と。」



「まさか、作戦から最も遠いと思われていたあいつが、パークの救世主たちに肩を並べる存在になるとは思ってもみなかったのです。少なくとも、かばんにとっては影の救世主なのです。」

「ですが博士、こんなことをあいつに聞かれたら未来永劫調子に乗られそうなのです。長の威厳の危機なのです。」

「わかっているのです。あいつにはずっとあいつのままでいてもらうのです。このことは我々二人だけの記憶に留めておくのです。我々は未来永劫賢くあるべきなので。」

「さて、内緒の無駄話はこのへんにして、そろそろ最強のハンター達の強制引退前の大仕事でもチョイしに行きますか。」

「ですね。明日からは今までの分も羽を……爪を伸ばしてもらって、そうですね……まずはかばん師匠の下でサイキョーの料理人でも目指してもらうことにしましょうか。我々の舌の未来のために。」

「そしてあいつは……とりあえず皿洗い組に放り込んでおきますか。」



「……面白そうだから私の耳も甘かったことにしといてあげますか。ふっふっふ。」

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