ボクの名前はラッキービーストだよ。よろしくね。

@hakuyoku123

凄くて、楽しい、ボクのフレンド

『初めましてボクの名前はラッキービーストだよ。よろしくね。君の名前を教えて。君は何が見たい?』


 二人の前に立つと、もう使われることのないと思っていたスピーカーから電子音があがる。


 人であるカバンはボクの存在に。フレンズであるサーバルはボクが電子音をあげたことにそれぞれ驚いていた。


 二人は図書館を目指しているようだ。だからこそボクは自身のシステムに従い彼女たちを案内することにした。


 ボクの中には様々な動物の情報が入っている。だが人間に対しての情報はあまり入っていない。


 ボクはパーク内をガイドするロボット。人間にフレンズのことを説明することはあっても、お客様である人間の説明をする状況がないからだ。


 そんなカバンのために出来ること。それは最短ルートで図書館に案内してあげることだった。


『任せて。ボクの頭には、パークの全地形が入ってるんだ』

『任せて。ぴったりのコースがあるんだ。ここからロープウェーに乗り』

『運転は任せて』


 そう、ボクはパークをガイドするロボット。人間が困らないように、このパーク内のことは全てわかっている。


 ……わかっているはずだった。


『マ、ママママママカ、マカセ』

『PiPiPiPiPiPiPiPi』

『検索中、検索中、検索中』


 だけどパークはボクの知っている状態とはかなり変わっていた。橋は壊れ、ロープウェイはなくなり、砂漠は通常のタイヤでは走行が困難なほどだ。


 人間がこのちほーからいなくなってかなりの時間が経っている。それに伴い劣化、破損はあって当然の話だ。


 効率的に考えれば、じゃんぐるちほーの出口で、別端末であるボクにガイドを譲渡するべきだった。


 ボクたちのデータは統一ではあるが、その地方いるラッキービーストならデータの蓄積も多いはずだから。


 ボクはあくまでパークをガイドするだけのロボット。お客様である人間からクレームがくれば、すぐにでもそうしただろう。だけど、失敗ばかりのボクを。


「ありがとうございます。ラッキーさん」

「すごいよボス!」


 二人は決して見限ることをしなかった。何度も失敗するボクを疑うことなく、どこまでもボクを信じてくれた。


 会話を許されたカバンならまだ理解できる。だが生態維持を原則としているため、一切会話をすることのできないサーバルもまたボクを信じてくれたのだ。


 古いデータしかないボクとの旅は決して快適なものではないはずだ。だがそんなトラブルも二人は笑って楽しんでくれた。


 そして雪山を走っていた時のことだ。ボクはその変化に気づいた。


『これからここを越えるよ』

「寒そうだね」

『越えた先に温泉があるよ』

「おんせん?」

『温かいお湯に入れるところだよ。通り道には樹氷もあるよ。かまくらも作ろうか。ゴールは温泉だね』



 図書館でカバンの正体が分かり、ボクたちは港に向かっていた。

 その最中ボクの電子音がいつもより高いことに気づいた。


 古いデータが一切通用しないまま雪山に来て、いよいよシステムに障害が起こったのだろうか。


 だがそうでないことにすぐ気付く。カバンやサーバルとずっと旅をしてきたからだろう。その言葉は自然と浮かび上がってきた。


『凄い。楽しい』


 それは生物が持つ感情というものだ。それはわかる。だがわかるからこそおかしな話だと気づく。


 ボクはラッキービースト。パークをガイドするためだけの機械のはずなのに。そんなボクが感情なんて。


 ふと二人の笑顔が浮かび上がる。始まりから今まで、その道のりはほとんど思い通りにいかなかった。


 だけどそのたびに新しい発見があった。トラブルだらけの旅だったけど、その全てが楽しかった。



 人間を最後に見たという港に着く。


 そしてあの黒いセルリアンが動き出した。あのセルリアンを止めるには海に落とすしかなかった。


 ボクの中の最優先システムが起動する。ボクはその全てを持ってお客様の命を第一に考えなければいけなかった。だけどカバンは。


「ラッキーさん、僕はお客さんじゃないよ、ここまでみんなに、すごくすごく、助けてもらったんです。パークに何か起きてるなら、みんなのためにできることを、したい!」


 その言葉でボクの覚悟は決まる。だがどんな理由であっても、人間を危険な目にあわせるべきではない。だからボクは。


 燃え盛る船の上に、セルリアンの前足が乗る。さらにもう一本足が乗ると、ボクは船を前進させた。


 これでパークの危機を、そして人間であるカバンを救うことも出来た。ガイドロボとしてこれ以上の名誉はない。


「ボスーー!!」

「ラッキーさーーん!!」


 サーバルとカバンが何かを叫んでいる。だけど熱にやられて、その声を聞き取ることはできなかった。ボクもまた届くはずのない電子音をあげる。


『カバン、サーバル。三人での旅、楽しかったよ』


 ああ、そうだ。ボクは楽しかったのだ。お客様を楽しませる機械であるボクが、楽しいという感情を持つほど。それほどにこの旅は楽しいものだった。


『楽しかった。楽しかった。……しかった』


 ボディが海水に浸かると、炎で溶けた部分に水が侵入する。ボクはボクとしての役目を終える。大丈夫、ガイドロボのラッキービーストはパーク中にいるから。だから、だから。


『アワ、アワワワワワワ』


 その考えが浮かんだ瞬間に、頭の中がショートしそうになる。


 三人での旅は楽しかった。だがそれを過去のものにしたくない。


 ボクはまだ、まだ君たちと、ずっと旅を。


 役目を終えたボクの体が再起動する。そしてまだ終わりたくないと、ボクの『心』に火が灯った。


 まだ壊れたくない。また三人で旅をしたい。ボクは壊れ始めたボディーの情報の全てを、本体であるレンズに収縮する。


 そして海中からそれを打ち放った。


 水圧を押し切り、ボクはボク自身を浜辺へと打ち上げる。


 本体だけのボクはもう自分で歩くことはできないだろう。


 ろくにガイドも出来ず、自分で歩くこともできない。普通に考えたらただのお荷物であるボクをお客様が捜す理由などない。ボクはこの浜辺でただ壊れていくだけの存在かもしれない。


 だけどそれでも確信があった。だって彼女はもうとっくにお客様などではなく。ボクの、ボク達の大切な。


「ボスーー!!」

「ラッキーさーん!」


 朝になると二人の声が聞こえる。そしてその声が近づくと、サーバルがボクの本体を手に取った。


 機械であるボクは、二人と旅をしているうちに心というものを得たのかもしれない。だが心を理解しようとも、ボクはこの状況に感動することはなかった。


 だってボクがどれだけ失敗しても、二人はいつも笑ってくれたから。二人がボクを探してくれるのは、初めからわかっていたから。

そんな二人を悲しませないために、ボクはいつも通り二人に声をかけた。


『おはよう、かばん』

「うわぁぁぁぁ! しゃべったぁぁぁぁ!」


 ただこうやって海水に投げられるのは予想外だった。


 データは古くて、すぐフリーズして、体もなくしてしまった。だけどそんなボクをカバンやサーバルはすぐに受け入れてくれた。


 だからこれから先もボクは彼女たちのガイドをしようと。いや、したいと思った。


 今度のちほーはボクのデータが役に立たない。だけどそんなわからないも、みんなでならきっと楽しいと思えるだろう。


 これからもどうかよろしくね。カバン。サーバル。


 凄くて、楽しい、ボクのフレンド。

 

 

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