食客商売6話-終「殺し請け負います」
診療所のベッドで、クーゼは気怠げに日差しを浴びていた。
倒れている所をマギル商会の食客に助けられたらしい。
ムウスの手下を殺したのも彼女では?
食客の事を疑ってみたが、見舞いに来た時に確信した。
違う。こんな呑気な女が人殺しなんてする筈が無い。
あの危機を救ったのは誰なのか。分からずじまいだった。
そして寝込んでいる間に、最悪の報せをたて続けに聞かされた。
まず、ムウス・パタとその取り巻きの弟子四人の死体が次々と街中で見つかった。
道場ではルゼットが自死、先生までもが息を引き取ってしまった。
道場は武道大会どころではなくなり、しばらく休館することになった。
あの夜。何かが起きた。アタシのおよび知らぬ所で何かが。
それが何か突き止めたいと衝動に駆られることもあった。
が、その度にこう思うのだ。
今度は死んでしまうかも。
偶々運よく助かった。
もしかしたら、あの時、ひょっとしたらアタシは死んでいたかもしれない。
人はいつ死ぬか分からない。いつまで生きられるのかも分からない。
何の為に生きて何のために死ぬのか。ただ剣を振るうだけの人生で、答えは見いだせるのだろうか。
寝ていると余計な考えが次々と浮かんでは消えていく。
早く怪我を治さなくちゃ。
女剣士はため息をついた。
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ニトとディー・ランの二人は高台から診療所を眺めていた。目が良ければここからクーゼの病室を覗き見ることが出来た。
「怪我のせいで気落ちしているが、あの女剣士様なら大丈夫だろう」
坊主は今日も酒に舌鼓を打っている。
「ちょっと危なかったな、今回は。請負人ってのは大変だよ。依頼人の裏まで見極めなきゃいかんから」
「うん」
ニトはぼんやり頷く。先日の神鬼迫る勢いは影も形もない。
雲。それも朧雲のような薄いやつだ。こやつ正体を掴むには骨が折れるぞ。
頭を掻いて坊主は苦笑い。
ルゼットの暗殺を請け負ったニトは、出立前にドモンから事件の真相を聞かされた。どうやらドモンは依頼を受けた直後から、一人単独で、道場の内紛を調べ回っていたらしい。
「にしても、意外だったなあ。師範とルゼットも含めた殺しを依頼したのが、ラグディオ・アディカだなんて」
また坊主から話題を切り出した。
今回の依頼人。ルゼットの仕組んだ偽の依頼とは別に、復讐代行と暗殺の仕事が入っていた。
クーゼに怪我を負わせたムウス一派への復讐。そして事件の裏で暗躍していた道場師範とルゼットの暗殺。
その依頼人はアディカ。誰とも関わらずにいた無頼の高弟だ。
「まるで謀略とか野心とか、そんなものとは無縁そうな面して、やることはやっちまうオッサンだったと」
と、ディー・ランは言う。
「ルゼット達もそうだったでしょう。誰だってあるんだ。隠している事の一つや二つ。いや、もっとかもしれない」
「お主のようにな」
「あんたこそ」
ニトは坊主の事をじっとり睨んだ。
道理は通らぬが、邪道はまかり通る。
無法は知らぬが仏。
渡る世間は悪ばかり。
天下を回すのは金。人を翻弄するのは力なり。
そんな世の中で、人知れず悪と戦う者達がいる。
彼らは正義の味方ではない。何故なら金を貰って人を殺すから。
しかし、外道ではない。彼らは邪悪を決して許さない。
晴らせぬ恨みを晴らす裏の世界の人間達。
悪を持って悪を斬る。
人は彼らを「請負人」と呼ぶ。
その殺し、いくらで請け負いましょうか?
(了)
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