食客商売5話-終「婿旦那の浮気は成功するのか?」
ドモンが何事もなかったように帰宅してから数時間後。
書斎で物思いに耽る彼のもとを、ニトが訪ねた。
「スキュレは?」
「帰った。泣いても誰も助けに来ないって気付いたらしい」
あらかじめ、食客にはスキュレを見張るように言っていた。
あの女ははしばらく雪に埋まりながら、稚児のように泣き喚いていたらしい。
「またちょっかいかけて来ると思う?」
と、ニトは訊く。
「どうだか。少なくとも、当分は大人しくしているだろう。今回はお前とヴィクに助けられた。ありがとう」
「なんだい藪から棒に。この所、礼を言われても、ちっとも嬉しくない連中に頭を下げられてるね、あたし」
苦笑いするニトは、不意に話題を変えた。
「そういや、ずっと気になってたんだけど。どうしてあの女を助けちゃったの? そりゃあ婿旦那は、超のつくお節介焼きだ。でも、理由は他にあるんだろ?」
「……これだ」
ドモンは机の引き出しから、銀色の髪飾りを出して、食客に渡す。
表面の装飾が剥がれ、先端も折れていた。
「シャスタのものだ」
「思い出した。女将ちゃん、昔はよくこれを使っていたねぇ」
髪を伸ばしていた頃のシャスタを思い出し、ニトは微笑んだ。
「最近の家内は、ため息が多かっただろう?原因はこの髪飾りだ。大事にしまっていた思い出の品が壊れていたと。それで酷く消沈したという訳だ」
「髪飾りくらい修理に出すか、新調できるでしょうに」
そう言いながら、ニトは髪飾りを返した。
「この髪飾りを作った職人が、あのシオン・スキュレの夫なんだ」
合点がいったニトは鼻を鳴らす。
「直してもらおうと職人のもとを訪ねたら、ちょうど妻に手をあげていた。そして、お節介焼きの婿旦那が間に入ってしまった、と。災難だったねぇ、婿旦那。面倒な人妻に付きまとわれ、髪飾りも直せずじまいとは」
けらけら笑う食客。
ドモンはそんな食客をひと睨みするが、それもすぐに辞め、ため息を吐いた。
無表情が崩れ、みるみる内に疲労が表に溢れだす。
「もうじきシャスタの誕生日だから、これを直して贈ろうと思っていたのに」
「ボヤきとは旦那らしくない。諦めて新しいのを買ってやることだよ」
「それしかないようだな。しかし、なんだ。うむ……」
歯切れが悪い。ニトは訝しんだ。
「どうしたんだい? 」
「また妙な噂が流れたりしないだろうか。贈り物で浮気を誤魔化としている……とか」
真面目かつ神妙な面持ちで話すドモン。
耐えきれる筈もなく、ニトは腹を抱えて大笑いした。
(了)
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