食客商売2話「外道を始末するのは悪党」
食客商売2話ー1「外道を始末するのは悪党」
「ねぇ?」
掛け布の中から女の声がする。
上下に動かしていた頭を止め、彼女は上目遣いに見てきた。
赤毛の女である。
「本当にいいの?」
「しつこい」
男は布を剥した。
二人とも裸であった。男は頑健で傷だらけの体を、女は艶やかな柔い体を、互いに灯りの下に曝しあう。
「不満なのか、オレが?」
「むしろ逆。あんたは他の客と違って金払いが良いし、相性も良いみたいだし」
そっと抱き寄りがてら、女の手は男の下半身へ伸びていた。
「じゃあ、何だ? 何だって同じ質問ばかり繰り返し訊きやがって」
男は尋ねる。
「何度でも念を入れて訊きたくなるよ。
だってあんた――」
女は脱ぎ捨てられた男の衣服へと目をやる。新調したばかりなのだろう。濃緑の布地はとても良い状態が保たれている。
この服が男の身分を如実に表していた。
「坊さんだろう。寺院の」
それは僧侶が纏う法衣であった。
おそらく彼が属しているだろう宗派は、
商業で賑わうサチャの街をはじめ、各地に寺社を置いている。
僧侶たちは御主(みぬし)という神を崇め祀り、清貧を良しとし、禁欲的なのだが、この男は僧でありながらそうではようだ。
「神様の使いとやらが、女と寝るなんて、罰当たりも良い所じゃないか」
「そっちこそ、見知らぬ男と寝る罰当たりな仕事をしている」
切り返された女はうっすら笑みを浮かべ、男の体をじっと見つめる。視線には、粘滑らかな色欲が絡みついていた。
……色街に入り浸る男など珍しくもない。
男か女か。子供か大人か。どちらかを買い、寝て、金を払う。違法だろうが合法だろうが、色街でコトに及べる店では、それが当たり前の光景であった。
「坊さんの客はこれが初めてじゃないのよ」
「そうだろう。そうだろう。大昔から、昼間から寺ん中で乳繰り合う腐れ共はゴマンといやがったんだ」
と、生臭坊主は砕けた物言いをした。
会話を交えながらも、両者はぴっとり互いの肌を重ね合わせていた。
「ええ。先週も一人、ぶよぶよに太ったのが来たわ。とっても偉い人らしいけど、詳しくは知らない。でも、あんたは、あの豚とは
まるで違う」
この僧侶、正に筋骨隆々という難しい単語通りの体つきなのであった。その体には至る所に傷があった。刃物傷、打撲痕、縫い痕、噛み跡、火傷。種類にも富んでいる。そして、無骨な顔にも古傷が奔っていた。
「良い体、それに……良いニオイ」
女は首筋に鼻を近づけ、細指で僧侶のざんばら髪を掬いあげる。
「どんな髪脂を使ってんだい? 安物の香りじゃあないわね」
「気になるか?」
ひょいと、女を上に跨らせ、尋ねる。
「ええ」
「こいつをつけると……寄って来るんだ。
色気につられた客から、金と命を奪う汚ねぇ虫が。俺はそういう虫から――」
僧侶の両手が女の両肩にあてられた。
「命を貰う」
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