第7話さよなら、ハッピーエンド! 7
「あれー? お姉ちゃんどうしたの? もしかして蒼君に何か言われちゃったぁ~?」
とどめをさしに
ふと頭を過る―――。
愛を伝えることが
ほんと一週間前の俺がいたらさぞこの行動に対して
「お姉ちゃん残念だったね。蒼君も死んでほしいって。
自分でもああいっといてなんだがほんとに馬鹿げてる。思わず
「あぁ、そうそう。蒼君、そろそろ例の返事聞かせてよ。これでもう君の味方はこの学校に誰もいないんだから。私も蒼君もみんなから
「……面白そうだな」
力ない声で応えると有菜はそれに不満なのか眉をしかめ、口をへの字に曲げる。
「もっとテンションあげようよ。せっかく
「成功?」
「そうだよ。この人は私と蒼君で」
「違うよ」
会話の腰を折ったのは俺の目の前にいるもう一人の雷木さん。
ずっと
「は? 何なの?」
「確かに有菜がそういう風に思っていたことはよくわかった。思えば今までこんな感じで話したことなかったね。私は自分のことを全然打ち明けないのに有菜は私のことをいつでも気遣ってくれて」
「だから何!? 意味わかんないんだけどっ!」
「わからない? じゃあこれが―――答えだよ」
ふわっと甘い香りと共に景色は一変する。
憎悪が包まれた空間―――そんなものはない。
あるのはただ一つ。
姉が妹を抱き締めているどこにでもある日常だ。
× × ×
数日前、学校近くの喫茶店『RABAS』にてある男が奥のテーブルで待ちわびていた。
「暇なんですね」
「まぁね。今月も
「うわっ……え、一人で?」
「
「いえいえ。お金持ちだなと思っただけですよ。それに一人いいですよね俺も元ぼっちなので」
あんな事件があったのにいまだこの余裕な態度はもう生まれつきなんだろうなと元生徒会長雪村真一に悪態をついた。
こんな風に話すのはいつぶりだろうか。
「驚いたよ。君から連絡が来るとはね」
「俺も二度と話すことなんかないとは思ってましたけど恥ずかしながらあなたの協力が必要な事態が発生したので」
「必要? なんだ
「あなたと一緒にしないでください……まぁ間違ってもいないというか」
すると元会長はニヤっと
「そうかそうか。ついに理解してくれる時がきたか」
「違いますよ。いいから話を聞いてください」
話を終えると元会長は注文していたブラックコーヒーを一口含み、軽く溜息を漏らす。
「そうか。刹菜君の妹が……」
「あなたにとっては
「心外だ……けど私がそれに対して口を挟める義理ではないことは承知してる」
「ならお願いします。その義理とやらを手にするために協力してください」
「……私に彼女を助ける
「でも俺に借りがありますよね」
「そんなの
「どうでもいいです。俺はただある姉妹を助けたいんですよ」
「無理に決まってるだろう。
「生憎と俺はわがままなんんでね。ということであの二人を助ける為に協力してもらえませんか?」
「いやだから」
結論からして数時間に及ぶ説得で元会長は折れた。ただある条件付きとなってしまったがそこは頭を下げにいくしかない。
「それで? 作戦の
「一応。
「……それは作戦とは言わないんじゃないか?」
「いいんですよ。その時は俺が身体を張って有菜を止めます」
「私が
「ははは。どの口がほざいてんだ」
じっくり話す余裕はなかったが元会長に頼むことはそこまで多くない。何故ならこの人は卒業式で唯一有菜にノーマークされる人、それだけの人選理由だ。俺が多少とも繋がりある人物ならどこでキャッチされるかわからない。しかし既に刹菜さんからも有菜からも、そして俺からも二度と顔も合わせないとされているこの男なら捕まえるのにぴったりだ。
これで協力者は―――揃った。
× × ×
「はぁ!? 意味わかんない! どういうこと!」
ひとまず勝手に語っとくか。
「何も。ただ俺は元会長に協力して一言伝えてもらっただけだ」
「……何を?」
「SNSのメッセージを見ろ」
「何それ。陰でやり取りしてたってこと?」
「な訳ねぇだろ。大体お前今日俺にべったりだったじゃねぇか。どこにそんな隙あるんだよ」
「そんなのトイレとかに籠っちゃえば」
「あーまあそういうこともできたか。でもそこは俺だけじゃ駄目でね。刹菜さんに少しでも興味を持ってもらうには俺以外の相手にも関心持ってもらわないと」
「ねぇさっきから回りくどいんだけど?」
「回りくどくても説明というのは長いものだよ、雷木有菜さん」
有菜の背後からの声に俺も視線のフォーカスを声のする方にやると立役者の一人である元会長の姿、次いで後ろにサナさんも見える。
「……あんた何しに来たの?」
「事の結果を見届けにきただけさ。気にせず続けてくれ」
いやそれはそれで気になるからどっか行ってくんね? あんたフレンドリーにしてるように思ってるけど色々忘れてないからね? なめんな。
「刹菜さん。ここ最近俺の友人とSNSでやり取りしてるようですけど彼どうですか?」
「うん。なんか蒼の友達って感じ……少し熱いけど」
「そういうやつなんですよ」
「ってか蒼、彼はいいけどあの美人な大学生の人何なの? また知らない所でハーレム作ってたの?」
「いやあの人彼氏いますし……」
えぇ……。俺助けてるのに何でこっちから責められるの?
てか放置しそうになってるから有菜が益々不機嫌になってるので戻して戻して。
「その何だ。有菜は知ってるだろうけど俺とこの人の出会いはアニメっていうか」
「知ってる。気持ち悪い趣味持ってることは」
「ストレートに言うなぁ」
ヲタクが今やグローバルな趣味だというのは
「私もいまいち理解には苦しむがね」
「あんたは黙っててください」
「文句を言いたくなるだろう。伝言だけの
そんな俺と元会長の会話のやり取りに有菜は自身の疑問をぶつけていく。
「……雪村さんじゃ話すこともできないと思ってたけど」
「そうだな。しかしこの男の名前を出せば彼女は耳を貸してくれるはずだろう」
「だとしてもただSNSのメッセージ見ろってどういうこと? 今日のことを蒼君がばらしたの?」
「だから俺じゃねぇよ。いくら今日をしのいだところでまた数日後にはお前は何か仕掛けるだろうし最悪包丁なんかで刺しかねないし」
「蒼君……さっきからもったいぶってるつもりかもしれないけどいい加減にしてくれない?」
「長い話なんだよ」
言ってる俺が疲れてきたぜ。
でもこれは順を追わないと面倒な作戦でな。何しろ刹菜さんを救うってだけでも大変なのにこいつも救わないといけないんだからな。
と、ここで俺のフォローつもりか、刹菜さんが一歩前に出て有菜の方を見やる。
「有菜の言ってた通り、私のせいでうちの家族壊れちゃったからさ。もう生きる意味とかなくしてたの、ここのところ。で、暇つぶしで携帯を弄ってたら知らない人からメッセージ来てて」
「それがそのメッセージの相手って訳?」
「うん。でも今日まで気付かなかったよ。蒼の知り合いだって」
「……誰? 蒼君の知り合いなんて限られるでしょ。五日市先輩? 魔棟先輩? それとも葵? それならまどかちゃんもついてくるしお得か。なんなら」
「俺の知り合いラインナップを殆どあげてくれるようだけどお前じゃ絶対わかんねぇよ。興味ないだろヲタクには」
「ヲタク……?」
「人間、沈んでるときは嫌なことに向き合おうとするより好きなことに向き合うのが一番なんでね」
言うと、ポケットから携帯を取り出して有菜の方に見せる。画面に映し出されているのは俺と刹菜さんの出会いのきっかけでもいえるあの大ヒットライトノベル、夢恋シリーズ最新作の公式HPの画面。そこにある『ファン
刹菜さんのことだからと今まで訊いてこなかったSNSアカウントについて調べた結果、案の定簡単に見つかった。もちろんヲタ垢である。
こうなりゃこの方向から刹菜さんとコンタクトを取れるのだがここで俺が出しゃばってもそこまでの
そうと決まれば彼女の好きなもので会話を弾ませられる人見知りしない相手。脳裏にはあの
とはいえ有菜に気付かれないためにはリズ、そして元会長に協力してもらってなんとか刹菜さんに伝えてもらうしか思いつく手段はなかった。別にメールとかでいいじゃんとは思うけど
「もちろんリズだけじゃない。こういうフォローは同性からもあったほうがいいからnichさんも」
「ふーん。それであの人に頼み込んだと」
「いや下手な人より全然よかったでしょ……」
「そりゃそうかもしれないけどさ。でも気になるでしょ」
「いやおかしいからねそれ。あとあの
「かもしれないけどさ……ま、凄い人ってのはわかったよ。何の警戒も抱かせずに近付いて色々と相談乗ってくれたんだから」
唯一懸念してたのはこの案はnichさんからのもの。俺はリズだけで行けるかと思っていたが、「女の子の不安を軽視し過ぎ」と何故か俺とユマロマが
しかし女の子のことは女の子が一番詳しい。しかも
にしても驚いた。いくら刹菜さんが一日中ふさぎ込む日はないだろうからとまさか彼女の家の近くで監視し、出てきた瞬間を狙って声をかけてくとは。俺やユマロマなら怪しい
「nichさんからは完璧なケア済と聞いてたから不安はありましたけどね」
「ほんとあの人恐ろしいんだけど……でも今度二人で買い物行く約束した。カラオケも」
「何よりです」
みんな知ってるよ。nichさんがただ者じゃないことは。
さぁこれで全てだ。
まとめに入ろう。
「SNSではリズ、オフラインではnichさんと俺のヲタク仲間が刹菜さんのメンタルフォローをし、その間に俺は元会長に頼み込んでちょっとした仕事をしてきたんだよ」
「……何それ。蒼君まだ何かやってたの?」
「あぁ。ただこれに関してはお前らもびっくりするんじゃねぇの? 今頃携帯に連絡が来てるだろうし」
「携帯?」
有菜が
「え!?」
「はぁ!?」
一番めんどくさい仕事だったよ、ほんとに。
「蒼君、君何したの?」
「蒼……嘘じゃないよね、これ」
信じ切れてないって顔だな。わかる、わかるぞ。
だって俺も未だに信じられねぇもん。
まさかお前らの両親の仲を取り持つことになるなんて。
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