第3話さよなら、ハッピーエンド! 3
でも今日に限っては耳障りでしかなくHRが終わると同時に教室を飛び出した。
まだ何も決まってないし決められていない。むしろ話は絶望の一路を少しずつ辿っていく。
―――蒼君。わたしと一つになる覚悟はある?
結局、あの場での回答は沈黙しかなかった。多分下手に返すよりも最善だろう。気付けば有菜の姿はそこにはなく昼休み終了を知らせる。そこからは頭がホワイトアウトしていたようで何一つ考えられず、気付けば授業は終わっていた。
誰に話しかけられたかもわからないがさっさと学校を後にして、ようやく駅に着いた所で真っ白な世界に
「おい! そこに捨てんなよ! 燃えないゴミだぞ!」
やけに大きく響いた声に顔をやれば駅のごみ箱の前で二人の男性が口論、いや中年っぽい
「……すいません。知らなかったんで……気を付けます」
ばつが悪そうに燃えるゴミに投げ捨てるとそのまま若い方の男性は改札の方へと消えていき、そんな一面を見ていた中年男性は「何だあの態度は」とぶつぶつ文句を
そうか。楽だよな。知らなかったって。どんな場面でも使える魔法の言葉だ。
自分への罪悪感を少しでも減らせるし相手にも知らないなら仕方ないという先入観を植え付けられる。
今だって知っていてゴミ袋を燃えないゴミに入れようとしたのと知ってて入れようとしたんじゃ後者の方が印象が悪い。ならば知らなかったほうがいい。後々の厄介事を減らすいい言葉だ。
でも人を殺そうとした時にやり過ごせる魔法の言葉は存在しない。
殺そうとしてるくらいに根本原因は根深く、止めようとするなら全員が無事というエンドは早々ありえない。なんなら
俺が挑もうとしている正体は不明。黒く
けど、その普通が何よりも難しい。どんなに思考を巡らせても見えない壁が
その疑問に答えられるとしたらきっと今隣にいないあの子だろう。神様はなんだって知ってる。俺が知らないことも誰かが知らないこともみんな知っている。
「……ふぅ」
空を仰ぎながら嘆息する。わた雲がふわふわと散らばり、呑気に泳いでいるようで気楽に思えた。あれくらい能天気でいられたらよかったのに。
「いやいやそれは無理やろ。雲に思考も感情もありゃせんよ」
空気をぶち破って来た不快な声音をよく知っている。どうしてここに? とは不思議と疑問が浮かんでこない。考えれば答えてくれるだろうが別にどうもしない。
ただそこにこの人がいただけのこと。
「こんにちは、リュナさん」
「おー。元気か?」
軽く手を
「どうしたんです? てっきりもう俺に興味も用もないものだと」
「
「前から思ってましたが神使の仕事って
「減らず口だけは一丁前になったようやな」
「おかげさまで」
あんたのせいで色々と拗れたことだけは確かだよ。まぁ俺が悪い点もあるのでそこは否定しないけれど。
目を細めて警戒を強める。何の用もなしに俺の前に現れるなんてことは地球が割れてもありえない。適当に見えるが神の使い。加えてあの子とは圧倒的に違う。その気になれば俺の存在だって一瞬で白紙になるだろうな。
「そこまで
「これまでの行いを反省してください。で? 本題はなんですか?」
「少しくらいええやないか。だべるくらい」
「嫌ですね。あなたの顔を見てると吐気がする」
「うちの顔やないからそう言われてもなぁ」
本人からすればどこぞの
「電車来るんでさっさとしてください、はい」
「はぁー。つまらなさは相変わらずやなぁ」
ほっとけ。
最後に会った時とは違い、こんなにも緊張感がないと却って怖い。
そう思った矢先のことだった。
「単刀直入に言うわ。あいつを返して欲しいか?」
「おもろいなぁその顔。よっぽど好きやったんやな」
「……うるさいですよ」
理性があってよかった。ここで激昂に駆られたところでこれからの俺が不利になるだけ。全ては神の思うがまま。
「で、本当の用件は?」
「いやだから自分の言う神様を生き返らせ」
「んな訳ないでしょ。あんたがあいつを消したくせに」
「せやな。もうこの世界から存在自体を消した。だから誰にも認識できるはずがないんや。自分除いてな」
「それってわざわざ忘れさせないでやったから
「お、してくれるんか。そりゃおおきに」
やっぱり一発くらいならいいか? ここまで女を殴りたいと思ったのはこの人以外いない。
わかってる。
「生き返って欲しくないんか? あんだけあの子のこと好きやったくせに」
「だからこそです。あなたは知ら……いや知ってますよね。ならわざわざ口にしなくても」
「せやから神様からの最後のチャンスってやつや」
苦々しい顔だけが唯一の抵抗となる。
ほんと人の神経を逆撫でするのだけは一丁前、いや神様級か。そりゃかないっこない。
「いやぁ最高やな!」
「そろそろ嘘でしたってネタバラシタイムじゃないんですか?」
「嘘な訳あるかい。神使が嘘なんて外道極まりない行為する訳ないやろ」
「あんたがそれ言いますか」
今すぐ神を信仰している新興宗教団体に
「本気で生き返らせるつもりですか?」
「せや。ちなみにその条件なんやけど」
「卒業式当日に雷木刹菜を殺させないこと」
「理解が早くて助かるわ」
むしろそれ以外にあるというのか。緊張感で変な汗が手に滲む。気持ち悪くてさっさと拭いたいが操られているように握った拳を離すこともできない。
「忠告はしたる。この未来は簡単には変えられへんぞ。よっぽどのもん犠牲にせんとな」
「それがなにかを教えてくれたりしませんかね? 沖縄まで一緒にいったよしみで」
「言うかボケ」
だよね。期待なんて微塵もしてないからいいんだけど。
だが弱い奴はすぐ吠えるのと同じで、口を動かしてしまうのは一種の防衛本能かもしれん。こいつを殺せるものなら今すぐにでもそうしてやりたいのだが所詮は別人のお面を被ってるだけ。この先も一隙も本性を垣間見せることはない。
「ま、やれるだけやってみぃや。神様自身も認めた変えられない未来。それを覆せるもんやら何でもしてやるわ 」
「気前良いですね……」
そんな美味しい話には必ずどこかに罠がある。
こんなの毒林檎だと分かった上で食すのと同じだ。
問題は毒林檎を食べた上で死なない方法である。
難易度なんてものじゃ図れないミッション。報酬は天井知らず。
―――卒業式の日に雷木刹菜を必ず死なすな。それで神様は生き返る。
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