最終章 神様、君の初恋を僕に下さい。(下)
第1話さよなら、ハッピーエンド!
解消した。
全く我ながら女々しいというか意気地無しというか……将来思い返す度にベッドに顔を埋めてじたばた足をばたつかせるんだろうな
しかし反省が済んだならそのまま立ち止まらず、次へ進むしかあるまい。
例え信じたくも受け入れたくなくてもこの世界にもう神様はいないのだから。
この世界はもう彼女を受け入れてくれない。
何よりこの世界でまだやらなければいけないことは残っている。
とある姉妹の話をしよう。
その姉妹は姉と妹。初めから一緒だった訳じゃない。ちょっとした経緯と複雑な事情が絡み合い
でも彼女たちの両親は決して
その結果―――ふとこんな事が頭を
コイツサエイナケレバ。
やがて彼女の中でそれは
この家庭問題に首を突っ込める立場ではないことは承知している。金貰っても関わりたくないし
けど―――やっぱり身体は動いてしまう。
生憎と
しかし
わからないことは人に訊く、それが
積もりに積もる悩みの種は減る余地すら見えないがこういう時こそ
そうして
「……久しぶり」
「ん、久しぶり。何? わざわざ呼び出して」
「まあなんだ。全然リズと会話できてなかったからな」
「ふーん。てっきり
そりゃそうだ。ずっと連絡くれていたのにシカトしてたのは俺だ。それがいきなり呼びだすなんて
だが頼るとなった時にこいつら以外に浮かばなかったのだ。学校の人間にはどこで聞かれるかわからないから
「あれ? リズと雨だけ? もしかして俺ら最後?」
「
続けて聞こえてきた声に顔をやればこれまた二人仲良く現れたユマロマとnichさん。リズはひとまずとして二人に
「いやー悪いな。ちょいと
「一本早いやつに乗れればよかったんだけどごめんね」
以上のことからこの
しかし俺にとってはすぐには
ちなみにこの二人が正式に付き合うことになったのはクリスマスからとのことらしい。何でもnichさんは薄々勘づいていたので誘われたときからその気らしく
「久々だな。元気だった?」
「それなりに。つか悪かったな急な話で」
「別に構わねえよ。この時期大学生は暇なんでな」
なははと一笑するユマロマ。しかし隣にいるnichさんはジトっと目を細める。
「最近まで
「あ、いやその……ね? あんまり終わったことに関しては振り返られないで頂けると、ねぇ
「そのせいで私も色々大変だったんだけど? あとここは別に構わないけど他のオフ会では私の名前バラさないでよね」
俺らならいいんですかというのも疑問なんですけど……まぁ
「お待たせしましたー。すみません、遅れて」
「おーお疲れさん。あれ? 魔王もきてるのか」
ユマロマの声にぎくりと背中が固まる音が鳴る。次いで恐る恐る振り向けば両腕を組んでへの字に口の形を変えた男が睨んでいるのが目に入る。
「呼ばれてないんだが」
「呼んだつもりないんだが」
つかこっちではナチュラルに俺らのグループ入りしてんのね君ら……。
リズ、ユマロマ、nichさん、歌恋、魔棟と一人余計だがオフ会という名目で集まってくれた五人。今回はユマロマに店は任せて、
今日もさっそく駆け付け一杯と言わんばかりにビールをあおっている。
「で、どしたんだ?」
予想通りと言わんばかりにユマロマが
「いやその……悪かったよ」
顔を逸らしながらそう答えるしかなかった。連絡を返していたならまだしも、途中からこいつらに
「みんなも色々と連絡してくれたのにすまなかった。その、色々と」
「言いたくないならいい。そういうときは誰にだってあるだろ。ま、俺はともかく理紗……nichさんが心配で心配で」
「あら、私よりも女々しく心配そうにしてたのは誰だったかしら。ねぇ
「いやまあそれは」
「ほんと、家まで行こうとしてたのよ、この人」
呆れるように答える理紗、いやnichさんだがそもそも俺の家をご存知なんですか、え?
「別にいいだろ。大事な後輩のためということでまあ」
「それで警察沙汰になっても私は無関係ってことで」
「え!? いやそれはなくね!?」
「冗談にしてほしい?」
うーん、この尻に敷かれてる様。見事に予想通りとしか言いようがない。
そんな感想を心境でぼやいていると今度左隣にいた魔棟が声をかけてきた。
「で、本題は何だ?」
「あ、いや」
「俺を省いているってことは学校絡みか?」
「察してるなら一々訊くなよ……」
「どうせ歌恋から聞くことになるんだから話せ。お前が前々から学校でも孤立し始めたのは既にみんな知ってる」
「なんでそういうこと言っちゃうの恥ずかしんだけどねぇ?」
「知るかお前のせいでギスギスして迷惑なんだ」
「はぁ? 誰がだよ」
「自分で考えろ」
ぶっきらぼうに言いながらジンジャーエールが入ったコップを手に取り、ずずっとストローを吸った。本当に誰のこと? 全然浮かばんとです……。
魔棟の発言を機に全員が俺の方に顔をやる。もう逃げられる空気ではない。
頭を掻きながらしばらく天井を仰いで、また視線を落としてを繰り返してやっと覚悟が固まったところで話を切り出した。
「ちょいと長い話になるんすけど……まぁなんか摘まみつつ聞いてください」
動かす口に緊張が乗るも一字一句ありのままの事実を綴っていく。ただみんなから距離を置いた理由に神様の話は外せないので申し訳ないがそこはうまい具合に
姉についてどう思っているか。そしてその姉を精神的に追い込もうとしていること。話は冗談半分のつもりでしか受け取ってくれないと半ば思い込んでいたが聞き手の彼等の表情は真面目以外の何者でもない。
そのことが妙に嬉しく、同時にようやく人に話せた一種の
ようやく話し終えるとみんなが難しい顔になる。
「
「それなら俺にもっとチート能力が
「何言ってんの。私が聞いただけでも沢山の女の子をはぶらかせてさらに贅沢言う気?」
「いやそうじゃなくて」
変に誤解受けてる感覚あるけど何これ。ついでにそこで頷いている魔棟と歌恋は辞めて? その態度イラってくるんだけど?
「という事情なので今日は
「後半が本音だろ」
そう言ったのはユマロマだった。既に空きグラスが目の前のずらっと並んでいるがまだ頬を紅く染めた程度。こんなに強かったっけ、こいつ。
「それにしてもニュースなんかでもよくやっているが身内を殺すっていうのがこうも簡単な動機とはなぁ。前に聞いた時は可愛いJKにしか見えないのに女性ってのは中々こう」
言いかけたところで急にユマロマの顔が歪んだ。というよりnichさんが脇腹をつついた。
「うるさい」
「はい……」
うーん、ナイスカップル。
楽しくやり取りを見ていると端でオレンジジュースを飲んでいた歌恋が悲しそうに
「そうだね。
全員が何も返せず、お通夜ムード。業界あるあるらしいが当事者が語ると洒落にならん。つかさず魔棟が店員を呼び、追加のジュースを頼んだ。
「で、どうしたいんだ、雨は」
「いやリズ聞いてた? 俺は」
「その有菜って人から刹菜さんを守るだけなら別に雨が刹菜さんに対して何も言わなければいいじゃん。それだったら俺らは必要ねぇし。でもそんな簡単な話じゃねぇんだろこれ」
図星ともいえる質問に言葉が詰まった。相変わらず変なところで勘はいいなこいつ。
あぁ、そうだ。俺が今日こいつらを呼んだ理由は二つ。
一つは有菜から刹菜さんを守るためのバックアップとして協力を得ること。具体的な案はともかくとしてまずは
もう一つは今その具体的な対策、それ以降の彼女のアフターケアについて。
仮に
残念ながら雨宮蒼はそこまでの結論しかたどり着けなかった。だがそれはあくまで主観だ。彼等による客観的意見を取り込むことで解決の光明の道筋を照らす。
もちろんそうならなかったらならなかったで問題は問題なんだが。
「そうだな……刹菜さんだけじゃなく有菜も助けたい。せめてあいつらがこれから先も普通に暮らせるくらいには」
「ふーん。雨君って意外と欲張りなんだ」
「欲張りですか?」
その返事に首を傾げるもnicihさんはやや冷ました表情で言葉を綴った。
「普通って何だと思う?」
「え、そりゃえと……」
「言えないよね。そ、普通って一番簡単で一番難しい。ましてや私達みたいなヲタクなんてそれで苦労してきたものだと思わない?」
一同納得の頷きや顔を逸らして肯定を現す者。
「でも普通を目指すっていう目的が立てられたのはよし。それにこうしてバックアップも完璧になったしね」
「どうも……え、バックアップっていいんですか?」
「今更呼び出しといて何言ってるのよ」
改めて全員の顔を見る。
全員がこちらを見ながら得意げな表情をしている。一々訊く必要なんてない。
「ほんとに……いいのか? 今回は本当に洒落じゃ」
「お前がくたばっちまうよりかはましだろ。知らねぇのか? 赤信号もみんなで渡れば怖くない」
「いや赤信号は止まれよ」
思わず突っ込んでしまうがユマロマは嬉しそうに笑みを唇に溢す。
しばらく宴は続いた。
今期のアニメの話。ブルーレイ特典。ソシャゲの編成パーティ。同人イベントでのエピソード。話題が尽きること知れず。この時間は永遠に―――。
でも、いつかは終わる。
そしてまた戦うのだ。
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