第16話大好きでした、ずっと 16




 子供の頃の玩具なんかは押し入れに入れっぱなしでふと家を出ようとした時なんかに見つかったりするもの。だから殆ど日の目を浴びることなんかないし、ましてや自分以外の第三者が目撃する可能性も僅かなはずだった。


「ふむふむ。デストラクションブレイブ……こういう字を書くんですね。どこのラノベ参照ですか?」

「頼む。今ある有り金全て出すからそいつを葬ってくれ」

「これは……第三機関成立によりパートナーができた。これって誰の事です?」

「許してくれ」


 懇願する姿は先程よりもみっともない。だが誰にだって見られたくない物は一つや二つくらいある。俺の場合にしろそもそも全て処分していたのにとされていた恐るべき一冊が彼女の手にあること自体、結論大失敗。

 門外不出どころかこの世から抹消し、業火で塵と化したトップシークレット。今思うと目も当てられない。

 だがこの場で言及すべきはそこではない。

 何故彼女がこいつを手にしているということだ。


「つかどこからそれ入手したんだ?」

「えー? 訊きたいですか?」

「場合によっては是が非でも買い占めないといけない」

「買収されるのはちょっと……でも、どうしてもというなら教えて上げなくもないですよ」

「是非。あとで諸々奢ろう」

「RABASの新作タピオカで許してあげます。でもその前に一つ」


 見るとじっと俺の瞳を見据えている。

 おおよその予想はついているがあの態度を取ったばかりで今更前言撤回みたいなのはどうなのだろうか。

 と、一瞬悪い自分が過ったがあれは十対一で俺が悪い。その前に槻木宮に対しても結局の所当たり散らしただけのガキみたいな所業していただけ。どちらが大人なのかという始末でもある。

 軽く咳ばらいをしつつも、言わなきゃいけない言葉を必死に模索し一つ一つ紡いでいく。


「その、悪かった。つい色々ありすぎて当たっちまった」

「えー本当に思ってますぅ?」


 じとっとした目つきは疑惑以外の何者でもない。信用なくなってますね、これは……。


「まあ、その辺も含めて今後は自制することを検討することを検討し、またそれを検討したいと思う」

「はぁ。素直に一言だけ言ってくれればいいんですよ。ごめんなさいって。遠回りしようとするから伝わらないんですよ、ほら」

「いやまあ」

「はーやーく」


 ここまで強引な彼女の一面は希少価値が高い。というより初見だ。

 むず痒い。

 子供の頃の玩具なんかは押し入れに入れっぱなしでふと家を出ようとした時なんかに見つかったりするもの。だから殆ど日の目を浴びることなんかないし、ましてや自分以外の第三者が目撃する可能性も僅かなはずだった。


「ふむふむ。デストラクションブレイブ……こういう字を書くんですね。どこのラノベ参照ですか?」

「頼む。今ある有り金全て出すからそいつを葬ってくれ」

「これは……第三機関成立によりパートナーができた。これって誰の事です?」

「許してくれ」


 懇願する姿は先程よりもみっともない。だが誰にだって見られたくない物は一つや二つくらいある。俺の場合にしろそもそも全て処分していたのにとされていた恐るべき一冊が彼女の手にあること自体、結論大失敗。

 門外不出どころかこの世から抹消し、業火で塵と化したトップシークレット。今思うと目も当てられない。

 だがこの場で言及すべきはそこではない。

 何故彼女がこいつを手にしているということだ。


「つかどこからそれ入手したんだ?」

「えー? 訊きたいですか?」

「場合によっては是が非でも買い占めないといけない」

「買収されるのはちょっと……でも、どうしてもというなら教えて上げなくもないですよ」

「是非。あとで諸々奢ろう」

「RABASの新作タピオカで許してあげます。でもその前に一つ」


 見るとじっと俺の瞳を見据えている。

 おおよその予想はついているがあの態度を取ったばかりで今更前言撤回みたいなのはどうなのだろうか。

 と、一瞬悪い自分が過ったがあれは十対一で俺が悪い。その前に槻木宮に対しても結局の所当たり散らしただけのガキみたいな所業していただけ。どちらが大人なのかという始末でもある。

 軽く咳ばらいをしつつも、言わなきゃいけない言葉を必死に模索し一つ一つ紡いでいく。


「その、悪かった。つい色々ありすぎて当たっちまった」

「えー本当に思ってますぅ?」


 じとっとした目つきは疑惑以外の何者でもない。信用なくなってますね、これは……。


「まあ、その辺も含めて今後は自制することを検討することを検討し、またそれを検討したいと思う」

「はぁ。素直に一言だけ言ってくれればいいんですよ。ごめんなさいって。遠回りしようとするから伝わらないんですよ、ほら」

「いやまあ」

「はーやーく」


 ここまで強引な彼女の一面は希少価値が高い。というより初見だ。

 むず痒い。頭をぽりぽりと掻きながら言おうとするも素直になれない自分が邪魔を続ける。引っ込めなければ怪訝な顔からニッコリフェイスへと移り変わることはない。

 何度も言う。自業自得なのだ。それを認めないことには自分の都合いい展開なんざ二の次。


「……ごめん」

「ごめんなさいです」

「くっ……ごめん、なさ……い」


 羞恥心に駆られながらも言い終えた俺はすぐに彼女に背を向けて、天井を仰ぐ。

 あああああっ! もう何でこんな目にあってんだよ! そりゃ俺が悪いけどさっ! 悪いけどさっ!


「まあ心がこもってない気もしなくはないですがいいでしょう。それじゃとりあえずそうですね。まずは私にとってはとーても残念な事実をお話ししましょうか。せっかく覚えていると思ったのに」


 むすっした態度にじとったした瞳が突き刺さる。どうやらまだ俺には余罪が残されているようだ。


「え、何の話だ?」

「わからないんですか? 中学生時代のこと」

「中学生? はて」


 生涯記憶から抹消したい期間と訊かれれば開口一番に中学時代と答えるだろう。

 暗黒、漆黒、ダークネス、シュバルツ、ノワール、ブラック。つまりはもう墨汁で上からめちゃんくちゃんに上塗りしたい苦い日々。唯一俺と共にしていた歌恋ですら全てを語ろうとしまい。

 そんな過去に何故花珂さんが干渉を?


「その顔は本当に覚えてないようですので語りましょう始めましょう」


 そうしてすうっと彼女は語り始めた。

 長い長い―――。


「その前に喉乾いたんでミルクティーを。あ、小腹もすいたんで」

「はよしゃべれ」


 お願いします。




 × × ×




「なんで……どじでぇ……」

「マジかよ。こいつ泣いてやがる」

「汚っ。面白いからこの顔あげちゃおーっと」

「それよりさ、いっそのこと適当に何人か呼んでやらせたほうがよくない? これより面白い顔になるって」


 助けて、たすけて、タスケテ。

 何度叫んだところで自己保身の壁を作られた私に差し伸べる手はなく。

 むしろ邪魔だ。助けなかったら背徳感に襲われ、助けたりしたら自分がターゲットになる恐怖心が襲う。


 わかんない。わかんないよ、どうして? 何が気に入らないの? 私は好きでこんな顔になった訳でもないしこんな性格になった訳でもない。

 直そうとしたよ。顔にガーゼとか貼ったりしてわざと不格好に見せたりとか話すときはあんまり自分を見せずに聞き手に回ったりとか。

 空気を読んできたつもりなのにどうして駄目なの?


「花珂さーん。これからウチらの友達何人か来るからちょいと相手してあげてねー」

「大丈夫大丈夫。素直に聞いとけばいいだけだから。まあ全員ヤれば満足するでしょ?」

「うわー。あいつら性欲強そうだから終わる頃にはこいつ死んでんじゃねぇの?」


 ふざけた笑いが彼女達を包み、私の身体を蝕んでいく。

 死ぬ、か。それもいいかも。花珂佳美は欠陥品でした。なので一から作り直します。お父さんお母さんごめんなさい許してくださいもう疲れました。


「おい聞いてんのかよ」


 ごすっと鈍い音が響き、同時に痛みが腹部から全身に走る。

 手で押さえる頃には次の一発が入り、そこからうずくまるだけ。背中に蹴られるくらいなら少しは痛くないから。


「もう何なん。むかつくんだけど」

「どうする? もう制服とかぶち破ってその辺つるしとく? taktakとかで配信したらウケそうじゃない?」

「えーそれだと運営から出禁食らうからこのままこいつのレイプされるとこ動画に撮って金取ればよくね? 顔良いからみんな見るだろうしヤれるともわかったらその分更に金取れるし」


 何を話しているのかはもう半分理解できなかった。いや理解しようとすることがもう怖くて、痛かった。

 助けなんてこない。人生なんて全部意味がない。

 私は間違って生まれた生物なんだ……。


「ちっ! いい加減顔上げろよ、おいっ!」


 一人が私の髪を引っ張り、無理矢理起こそうとした瞬間だ。


 がさっ。


 ガサガサガサガサガサガサガサガサッ。


「ちょいと待て。待たんかい下衆共」


 その人はいた。

 その人は言った。


「あ? 何お前? つかその恰好キモッ!」

「ほんと。面白いから写メろ」


 相手が怯まず、むしろ敵意をむき出しにしてようとも恐れず。


「そいつから離れろ。お前らみたいな低能が貪るから俺の存在はこの世に必要とされる……」

「は? 意味わかんないだけど? 頭ハッピーセットかよ」

「ふざけるなっ! まだお前らよりハッピーセットの玩具の方が役に立つぞ」


 ……言ってることはちょっと意味わかんないけど。


「もういい。こんななよなよしたの、ウチでも勝てるでしょ」

「おーやったれやったれー。つかそれ動画撮っとくわ」

「かかってこい。言っとくが」

「ほいっ」

「がはぁっ!」


 ついでに助けに来たのかもわからないくらいに弱いし。しゃべってる間に蹴られて、そのままさっきの私と同じ体制になって、あとは四方八方からリンチ状態。

 だ、大丈夫だろうか。私が助けたほうがいいのかな。でも私じゃ彼女達にかないもしない。それとも誰か助けに呼んだ方がいいのか。


 けどその時、私の瞳は―――彼の瞳と絡みついたように結び合い。


「ふざ……けん……なぁーっ!」


 彼は立ち上がった。

 その後すぐさま、私の手を取ると一目散に駆け出した。

 何メートル、何十メートル。とにかく足は止まらず、けれど変な高揚感が私を包み、その時私の世界は違う道へ入った。

 足が止まったのは彼女達と随分離れた所。ずいぶん遠くまでやってきた。

 その人は格別変わったところはなかった。学ラン姿のどこにでもいる中学生でおかしいところは一つも見当たらない。


「あ、あの助けて」

「礼などいらん。むしろ敵前逃亡したのだから恥ずべきことだ。忘れてくれ、それじゃ」

「え、あ、あのお名前を」

「名前などいい」

「で、でもっ!」


 私は強引に引き留めたが結局彼は無理矢理引き離し、そのままその場を後にしていった。

 世界を変えた人。何も手掛かりないと思ったらふと足元に何かが落ちているのを見た。さっき私が引き留めた際に彼の鞄から落ちたものだろう。



 それがもう一つのスタートであり、花珂佳美の生きる道ともなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る