第15話大好きでした、ずっと 15
今更戻るのも面倒で教室にはいかず、そのまま別校舎に入り、適当な教室に入った。見回りの教員なんているはずもないのでしばし誰もいない空間でのんびりとできる。
思い返すのも憂鬱で、小難しい言葉で一つも表せない。ただはっきりと明言するのは雨宮蒼は最低最悪の男という事実のみ。あがき苦しんだなんて偉そうな口が叩けるものじゃない。自身に積もった醜い心情真理を自己満足とでも言わんばかりに叫ぶ姿は滑稽の他ならなかっただろう。
けれどこれでよかった、そう本心からは思えてなくてもこれ以上彼女達によっての理由はこれで潰したつもりだ。あの時間、あの瞬間に切れたのだ。
それでも尚、関わりを諦めない根性を持ち合わせているのなら本格的に俺はこの学校が姿を消すしかないのではなかろうか。いや冗談抜きで。両親に叱責される覚悟くらいは持ち合わせている。大幅な人生の軌道修正に苦労は想像からほど遠くて、考えるだけで自嘲的な笑みが漏れてしまう。
携帯見て暇つぶしも気が乗らず、ぼーっとしていると廊下から軽快な足音が響いてきた。教師とは思えないが一応机の影に隠れ、外からは見えないポジショニングにつく。
「んー、ここにもいないか。雨宮君」
しかしその聞き覚えのある声音にそーっと顔を覗かせてしまうとこれまた見知った顔だがさっきまでの連中よりかはかかわりは薄く、いやまあまあ濃かったりもしたけど。だが北条五月という珍客に目を見張っていたがつい警戒心が解け、がたりと机を揺らしてしまう。
気付いた頃には時すでに遅し。にたーっとこちらに顔を向けた北条さんが教室に入ってきた。
「みーつけた。こんなとこでサボってんだ」
「……何なの。さっきから」
「ん? もしかして忙しい感じ?」
「忙しくはないが人と話したくない感じ」
「そっかそっか」
納得したかと思えば俺の横までやってきて静かに腰を下ろすとふふんと明るい瞳でこちらをロックオン状態。反対に訝しげな視線を向けているが全然気にしてないご様子。こいつに期待したところでって話だよね、そりゃ。
「何しにきたんだ? 今更関係ないだろ」
「うげぇ。昔の話をひっぺ返すの辞めてよね。私なりに結構けじめつけたつもりなんだけど」
「だったら俺に構う必要もないだろ。さっさとうせろ」
「うわぁ。言い方が自分に酔ってて引くわー」
すうっと目を細め、引き気味に鋭利な言葉を突きさしていく。そういやこういう人だったな、こいつ。
「さっきさ、階段ですれ違った女の子って雨宮君とよくいた子でしょ? かなり号泣してたけど原因は雨宮君?」
「だったら何だよ」
「別に。女の子泣かせるの得意だなーって」
皮肉のつもりなんだろう。自虐した過去をよくも恥ずかしげもなく見せれるもんだ。
「マジで何しに来たの? 俺を連れ戻そうとか考えてるつもり?」
「いや別に。ただ私も授業に間に合わないからふけちゃおうと思い、この辺歩いてたら雨宮君がいないって侑奈から連絡来たから。で、どこかにいるのかなーって」
「そういうのが余計な世話だって言ってんだよ。マジでうざい」
「あーなるほど。まあでも確かにこれは侑奈が悪いね」
珍しくこちらの意見に同調する声がありちらっと北条さんを一瞥する。
「いや驚くことないでしょ? 一人になりたい時くらいは私だってあるし。なのに余計なおせっかいとか意味不明なんだよねー。そりゃむかつくしうざいよ」
「……わかってんならさっさと消えてくれないか」
「んーでもね、侑奈のことはどうでもいいけど私的にはチャンスだから離れたくないなー」
「チャンス?」
「私、まだ諦めたなんて一言も言ったつもりないけど?」
得意げに言うがこちらとしてはいい迷惑だ。
約半年前にはっきりと伝えた。北条五月とは付き合えないと。
そして俺が好きなのはあの子だったと。大好きで、愛おしくて、ドン引きなんて恐れもせずに力説する姿に彼女は最後の最後で大笑いしながら去っていった。それが俺と北条五月のほんの短くてちょっぴり騒がせたラブストーリー。
今思えばあの時、こいつを選んでいれば少しは未来が変わっていたのだろうか。修学旅行で神様も五日市のことも考えず、ただ目の前の彼女と幸せなひと時をアルバムに残したいと一生懸命になれてたのか。
「……ほんとにまだ俺のこと好きなの?」
「うん。私は何度でも言うけど好きだよ、君の事」
「どういうことされても?」
「えーとそれって乱暴系かな? あんまり痛いのは嫌なんだけどね、あはは」
その嘲笑いがキーだった。
両腕を抑えるとそのまま床にそのまま押し倒す。面食らった表情だが理性はもうどこにもない。ゆっくりと彼女の顔に手をかけ、やがて身体の方へ伝うように触れていく。
「なぁこれでわかっただろ?」
「……いいよ、別に。雨宮君が満足するなら」
まだわかんねぇのか。常識的に考えれば声の一つくらい上げるだろ。
抵抗の一つも感じない彼女に不埒な思考だけが働いていく。
コノママヤッテシマエバイイ。
俺の事を好きなら最後まで続けても文句はないはず 。
すうっと触れている身体が首元からやがて胸部へとさしかかろうとしている。襲っているのは俺なのに心臓の鼓動が早くなり、何だか辛い。背徳感やら恐怖やら色々混じりに混ざったものが俺自身をも襲っている。
でも悪いのはこいつだ。俺のパーソナルスペースにどいつもこいつも入るなと言っているのに無理矢理突っ込んで来た。力で苛めたり、泣かせたりとしたがこいつは運が悪かっただけ。
別にいいだろ。これはこいつ自身が望んでいたことでもあるんだから。
あとはもうこのまま何も考えないだけ。そのまま自己嫌悪に苛まれながら最後までやって退学にでもなればいい。雨宮蒼にふさわしい最後だろう。
俺の腕はとうとう胸部に触れ、柔らかい感触に一層顔が熱くなるがそのままゆっくりともう片方の手で反対側を掴もうとした時。
ようやく彼女の身体のある異変に気付いた。
「……震えてんじゃん、本当は怖いんだろ」
「あははは……まあちょいと乱暴すぎてるからかな」
嘘つけ。こんなことされりゃ誰だって怖いに決まってる。
瞬間、正気に戻ってしまい慌てて身体を起こし、彼女から離れる。すぐに北条さんは乱れた服を整えると再度こちらに目を向けてくる。
「やっぱりね。君はこういうこと似合わないよ」
「黙ってろ。気に食わなかっただけだ」
「知ってる。でも信じてた」
告げると立ち上がり、そのまま扉の方まですたすた歩いていく。
「もう少し雨宮君とお話したいけどなんかお客様いるから私は離れるね」
「客?」
首を傾げると北条さんは廊下の方へと指をさし、窓越しに顔をやると先程までに泣きじゃくったであろうあの後輩が頬を膨らませながら立っていた。
「な、何やってんですかぁぁぁぁぁ!」
× × ×
「だから不可抗力っていうか」
「信じられません。大体女性に手をあげるなんて男の人として恥ずべき行為ですからね! 今日という今日はもう許しませんからっ」
ほんとバッドタイミングに来やがったよ。つか戻ってくるの早すぎだろ。二度と顔見せないと確信すらしていたがどうやら見積もりが甘すぎた。
想像以上に花珂佳美という女の子のメンタルは強靭、それもそうか。神様に聞いていたがこいつはいじめられる日々をある期間生き抜いていたんだ。いくらトラウマのトリガーを発したところで簡単に折れるわきゃない。
「ったく……侑奈先輩が聞いたら何て言うんだが」
「知らねぇよ。勝手に言ってくれ。そもそも何しに来たんだよ」
「んー仕返しですかね?」
「はぁ?」
怪訝な声を上げるが軽妙な口ぶりをしている彼女にどこか違和感を抱く。というよりさっきから手に持っているそのボロッボロのノートはなんぞそれ。
「とりあえず一ページ目からと」
ぺらっとノートを捲り、じーっと目を見据えてそのまま微動だにしない。何がしたいんだ、この子。
しかしどうしてか。不思議とこのノードに見覚えがある。何だろう。分からないけれど掘り出しちゃいけないものな気しかしない。いやどこで? というより待て。いやそもそ熟考する前にストップだ。
まずノードに書いてある『ダークネスプロダクション』という文字列を観よう。既に突っ込みどころなのだがそこはその辺に投げといて。
癖のある汚い字。どうに見ても俺が書く書体にそっくりだ。その道十七年のプロは言うんだから間違いない。むしろオンリーワンで使っている個人人気No.1書体で誰も使わない。悲しい。
だがあんな厨二病ネームな企画製作書を考案した記憶がない。ないのだがどうにも嫌な予感が過る。
「えーと、漆黒の刃、ブ、ブリティシュエメラル」
「おっけー、わかった。金か? 金でいいか?」
ヒントを与えてくれてありがとう。
ヒントどころか大正解。パフパフパフパフ。
そして頼む。金は積むからそのあるまじき黒歴史の記憶を処分させてくれ。
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