第9話大好きでした、ずっと 9
学生生活はあっという間というが実に長足と実感した期間である。
確かに一年時とは状況が大きく異なってたのも理由の一つだろうが差し引いても一日一日が何も満たされないせいだろうか。気付けば寝て。起きて。学校行って。帰って。以下エンドレス。
ヲタク活動はほぼほぼ休止状態。
とはいえSNSのチェックは日課みたいなところあるのでアニメ情報はインプットされている。しかしそこからモチベーションが上がると言われれば否と答えるしかあるまい。
「まずは片付けからかな」
両の頬をぱちぱち叩き、気合を入れなおした。
今日は日曜日、まだ午前中。断捨離も含めた上で部屋掃除を決意していた。
捨てようと考えているのは小中学校の教材と今まで集めたアニメグッズの一部。
もちろんヲタクを辞めるということではなくてただの整理だ。勢いで購入した二番くじの景品だったり劇場版やイベントの際に勢いで購入したグッズ等々。
挙げればキリがないくらいのだがヲタクは何せ整理整頓に弱い生物……のはず。
こんな俺で今年は受験生で、来年は戦争突入だ。
その受験対策案としても漫画やゲームも一部は母の実家へ送ったりして誘惑を絶ったり、SNSもヲタ垢はしばらく見ないようにする等すでにいくつか考案されているプランがあったりもする。
実感なんてほぼほぼないが意識よりも形から。
さて、それじゃレッツお掃除といこう。
「えーと引き出し……あーこれこれ」
さっそく第一の弊害である。
いくつもに重ねられた収納ケースに押し込まれたアニメグッズや設定資料集。コミ〇で購入した同人誌をばさばさと取り出していくがここで脳裏の意識からは掃除は消えており、ぺらぺらと同人誌の閲読に切り替わる。
「あーやべ。これ七巻だけ抜けていたか。購入しとかないと」
第二の弊害。
本棚の並べられている本が関数順だったり透明なブックカバーがかけられているかを確認している際、つい足りない巻数を見つけてしまう。これが何を意味するかは想像つくだろうがこの掃除の意味がなくなることである。はい、早速注文かけました。
「えーとこの位置にこれ置きたいけどこの高さだとなぁ……仕方ない、買うか」
第三の弊害。
断捨離により広くなったはずのスペースを埋めようとする。そう、今はよくても今後我が家にやってくるであろうグッズや同人誌、漫画にブルーレイ達。その時彼等をどこへ収納するのか? 今回みたいに収納スペースにそのままにしていれば埋もれてしまい、日の目を見ることがなくなってしまう。そうならない為に新しいブックトラックやら新しい陳列ケースとインテリア用品がまた増える。
結果、こうした弊害により俺の部屋掃除は毎年片付いた感はまるでない。
それでも一通り終え、大きく腕を伸ばす。
「んー……今日はこれでいっかな」
どうでもいい一日だがそれでも何かしてないと落ち着かない。なので暇つぶしがてらにこういう面倒事をやっていく。勉強? 何それ美味しいの?
「お兄ちゃん、入るよーって部屋掃除してたの?」
「諸々グッズ増えたからな」
「あーそうだね。お兄ちゃんの年だとまだ売りにもいけないもんね」
澪霞がげんなりした声で痛いところを突いてきた。
これが十八歳以上ならこやつらが次の仲間を迎える資金源となるのだが高校生の枠内である以上は仕方ない。
「で、何か用?」
「そだそだ。お兄ちゃんにお客様ー」
「客?」
「すっごい可愛い女の人―。でねでねっ、自称お兄ちゃんの彼女候補さんだってー! いやー前に別の綺麗な人を連れてきた時から実はラノベ主人公系だったのと思ってたけど素質はあったんだね!」
目をキラキラと輝かせる澪霞。いやラノベ主人公ならまずはお前が俺に優しさをくれよ。
で、一体どこのどいつがやってきて、
「やっほー。彼女さんでーす。蒼君元気ー?」
解散。
× × ×
「あんな可愛い妹さんいたなんて本当にラノベ主人公なんじゃないの?」
「どうでもいいからさっさと用件だけ言え」
平和な日曜日終了のお知らせ。
無理矢理パーソナルスペースともいえる我が家に突入してきた有菜は俺の部屋で澪霞の出したお茶を啜っている。
「冷たいなー。修学旅行以来私達を避けてるのは侑奈先輩から聞いてたけど筋金入りだね。私なんか悪いことした?」
「うるせえな。用ないなら帰れよ」
「……ありゃりゃ。それじゃちゃんとお話しようか」
あるのかよ。
ただからかいに来ただけなので追い返すつもりでいたが余計面倒になった。適当に切るか。
「お姉ちゃんのことなんだけど」
「刹菜さん?」
「うん。実はさ、お姉ちゃんが大学に進学したらすぐに海外留学したいって言いだしたの。蒼君知ってた?」
「いや」
留学なんてあの人の口から発せられたことなど一度も耳にしていない。アニメ大好きジャパンを離れたくない意志すらも感じられたあの人がねぇ……。
「それでパパとママに報告したんだけどお母さんが大反対でお父さんは一応賛成。でも中々引き下がらないからついパパもムキになってママに言い過ぎてしまい、そしたら今まで溜まっていた鬱憤とか愚痴を互いに言い合いだして、もう最悪。しまいにはパパが浮気してるだのしてないだのってママがヒステリー気味になってパパも意地になっちゃって全然家に帰ってこなくなっちゃって」
「家庭崩壊か」
訊くとこくりと有菜は首を縦に振る。
互いの言い分もわかるがこの姉妹でそういう両親か。血筋からみると優秀そうに見えるしそれこそ心が広い寛容さを持っているようにも思えるけれど現実はそううまくいかないもんだね。
「で、俺に何しろと?」
「その件でお姉ちゃんがさ、結構病み気味になって……一応もう自由登校だから学校は来なくてもいいんだけど。でも明るくなったかと思えば、また塞ぎこんじゃって」
「だから俺に何しろっていうんだよ」
「もう、察してよ。男の子なんだからわかるでしょ」
呆れ口調でそういう有菜にぴくっと青筋が立つ。
うざ。ほんとこいつと今までよくやってこれたな。なんでもかんでもわかるでしょ雰囲気だしてくる奴、マジめんどくさい。
「その顔は本気でわからなそうだから一応言ってあげるけどお姉ちゃんを慰めてって話」
「断る」
「少しは考えてよ」
「はぁ。あのさ、他人の俺がお前らの家庭事情に首突っ込めるわけないだろ?」
火に油を注ぐのと変わらん。
人間なんて所詮できもしないことをやろうとするから痛い目に合う。
神様が全て決めてるんだ。それぞれに出来る可能性がある事を最初から最後まで。
俺が助ける? 冗談じゃない。何の義理あって助けないといけねぇんだよ。
「ここまで来てくれて申し訳ないが俺は面倒事嫌いだし、もうお前らと関わる気もない。以上、さっさと帰れ」
「ぶっきらぼうだなー。ねぇ、本当に」
「うっせぇよ。いいから帰れよ」
荒くなった語気でそう言うと有菜は不機嫌そうな顔になり、目を細めこちらを睨んでくる。が、俺が態度を変えないことを悟るとすぐに立ち上がりドアの方に行くとぱたりと止まる。
「意味わかんない。けどうん、わかった」
独り言を漏らすとドアを開け、部屋を後にしていく。
下から「もう帰るんですかー?」と澪霞の残念そうな声が聞こえるが知らん。
ベッドへ寝転がり、大きく溜息を吐く。
どいつもこいつも。いい加減に俺を忘れてほっといてくれ。
うざいんだよ。
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