第6話大好きでした、ずっと 6




 文化祭が終わった後は修学旅行の準備でまた賑やかになる。季節もすっかり秋に頃替わりし、食べ物がより一層美味しい季節。ついでに今季クールアニメは久々の大豊作だ。

 その反対は喉に何かが引っかかったような鬱念は溜まる一方。

 あの時感じた既視感の正体がつかめていない。初めて会ったはずなのにどうしてそんな風に思えたのか。謎しかたまらず、糸口が見えないのが辛い。


「ねえ、蒼」

「ん、どした?」


 自己の世界から覚ましてくれたのは侑奈。教室は現在修学旅行の班決めで盛り上がっているところ。大方その話だろう。


「班なんだけど私と蒼と鹿米さんの三人組でいい? 他四人班なんだけどなんか帳尻合わせようとしたらその」

「鹿米さんが嫌じゃなきゃいいけど……」


 言うと侑奈の後ろから鹿米さんがちょこんと侑奈の影に隠れながらも俺の方に顔を覗かせている。

 教室内でもあまり人と会話している姿はなく、物静かなイメージが定着中の子なのでおおかたハブれ者と言ったところか・


「よ、よろしくね。雨宮君……」

「ああ、よろしく」


 簡単に挨拶してこの日は終了。

 それから三人で修学旅行の予定を詰めていった。どこへ行こうか、何食べようか。

 おまけに十月にも関わらず、ホテルのプールはまだまだ使えるときたものだから水着はどうしようなどという会話も浮上。聞か猿状態とはいかず、男子一同期待が膨れ上がるもの。あ、俺は夏に海で見たりしてるから特には。


「雨宮君。僕さ、ここでやるガラス細工体験とかいきたいかも」

「あ、わたしここのアイスクリーム屋いきたい」

「そしたら僕は水族館のあとに」


 俺の意見は何一つ通らない。本音は夜抜け出して、沖縄のクワガタ採集に赴きたいのだがあとで大目玉くらうリスクを考えるのと生息地とホテルがかなり離れていることもあり、何かと難しい。

 マルバネクワガタ見たかったなぁ……まあ採集は禁止だから観察のみなんだけど。


「うん、それじゃこのコースでいいかな」

「賛成。でも僕の希望全部通しても大丈夫なの? 雨宮君の行きたい所とか」


 鹿米さんが申し訳なさそうにチラリとこちらの方を一瞥してきた。優しいなぁ、この子。


「大丈夫だよ。大体行きたい所は済んでるし」


 やんばるに行きたかったです、本音は。マルバネクワガタを一目でも……一目でも……。




 × × ×




 一方でヲタク活動も新展開と言うべき変化が訪れていた。


「同人活動?」

「そ。漫画、イラスト、小説、評論、音楽と色んな方面での活動ありのオールフリーな同人サークルを立ち上げようと思っててな」

「ふーん。でもnichさんとか既に活動してるから入れないんじゃ」

「まあ私もちょっとくらいはね……一応彼氏の頼みだし」


 言うと少し顔を紅くしてそっぽを向いた。可愛い、何この人。いつもクール系美人で通ってるnichさんのギャップ。最高っすね!

 なのに彼氏がこんなんだからなぁ……神様はどういうサイコロを振ったのやら。


「じゃあメンバーは俺と雨とリズと理紗りさ、じゃねえnichと」

悠馬ゆうま君?」


 視線を少しだけ落とすとユマロマの脇腹をnichさんが思いっきり捻っている。段々と歪んだ顔に変わっていく仲間の姿は哀れの他ならない。でもnichさん理紗って名前なんだ。イメージ通り。悠馬君はどうでもいいや。


「悪い! 俺が悪かった!」

「もう……まあここのメンバーなら本名バラしてもいいけどさ。信用できる子達しかいないし。ね、歌恋ちゃん?」

「ははは……まあ私はSNSのアカウント本名で登録してるんで」

「他の所は気を付けろよ。今時本名で検索してSNSアカウント特定、学校自宅住所家族構成その他諸々あっという間に掴めてしまう時代だし」

「あー君は相変わらずだな。心配し過ぎなんだって。それとも私のこと心配?」


 誘ってるとしか思えない訊き方に咄嗟に視線を外す。演技なのか自然なのか上目遣いは蠱惑的で俺が童貞ならその場で頷いてしまう。いや今も童貞だけどさ。


「こほん。それで同人サークルとして最初の活動はなんだ?」


 現実に引き戻させてくれたのは隣に座っている魔棟……君。かなり不機嫌そうにギロリとこちらを睨んできている。オレワルクナイヨ?


「そうだなぁ。最初は小さいイベント! と行きたいがお前ら高校生は中々多忙だし金銭も色々厳しい。そこで一気に大きいイベントから入り、そこから活躍場所を広げていく形だな」

「となるとコミ〇か?」

「そうだな。冬コミが一番早いしな」


 あと二ヶ月もしない内に年内最後の楽しみが始まるとか一年が早いなぁ、ほんとに。特に今年は侑奈が彼女になったことや友達が急増したこともあってか、毎日が刺激的で疲れたと感じる日々が去年以上に多かった。

 ヲタクらしくない人生なんだがこれはこれでモテ期到来ということで一つ、ね。


「で一応それぞれの要望訊くが今ここにいるメンバだと俺とリズとnichはイラスト。歌恋は漫画か。マオウは音楽。で、雨が小説と」

「一応訊くがやるジャンルは?」

「オリジナルだな。二次創作の方は全員の意見が一致ってのは中々ないからそこはもう個々のサークルで。それに毎回出せというわけではなくて出したい奴だけ出す。そういうノリの方が長く楽しめると思って」


 なるほど。確かに強制力はないが緩くやるくらいが長続きするコツだと聞くし悪くない提案だ。


「最初に断っておくが歌恋のとこの参加日と被ったら出れないぞ」

「当日の売り子とかは臨機応変にやればいいだろ」

「だね。皆毎日が暇だろうし」


 毎日暇なのはリズだけだとは思うも口には出さない。

 とはいえこのメンバで集まるのも半年。遊ぶ機会はかなりあって学校の友人よりも遊んでる。一人は同じだしね。信頼関係は深いもので口にはできないけど将来的にずっと続く連中ってこいつらなんだろうなぁとも考えられるくらいにはこの集まりが好きだしこの人達が好きだ。

 将来、酒の席とかで溢さないようにしたいがうっかり滑らせるんだろうなぁ、俺。


「うし、それじゃみんな詳しい事はまたメッセするから冬に向けて短いけど頑張るぞ」

「まずは当選してからでしょ?」

「受からなくても委託があるんだから出すに決まってんだろ!」


 行動力だけは人一倍あるからな、ユマは。

 とはいえ気分的には楽しみ。創作活動なんて柄じゃないがもしかすると自分も有名ラノベ作家とかになれるんじゃ……なんて妄想だけは一人前だけどね、俺は。


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