第5話大好きでした、ずっと 5
侑奈は後輩と話してくると告げてから放置状態。
嫌ではないのだが暇である。別に一人で回るのも面倒だし誰かを誘って回るのも面倒。早い話がだるい。意気揚々とするこの空間を純粋に楽しめてない辺りが陰キャだなぁと我ながら思う。
「あれ? 雨宮じゃないか」
「あ、ども。生徒会長」
「もうすぐ辞任するんだから生徒会長じゃなくなるがな」
顔をやった先には反対に彼女のサナさん連れて陽キャの過ごし方の模範とも言うべき存在がいる。満面の笑みを浮かべている辺り彼女つれている所もまんざらでもないご様子。そりゃ美男美女だから周囲の嫉妬なんて気にもしないだろう。
「お疲れ様。雨宮君」
「お疲れ様です。サナさんも休憩中ですか?」
「そうなの。部活の出し物も終わったしあとはこの人が楽しませてくれるかなーって」
「へえーはー」
まともな反応するのも面倒なぐらい甘っ甘なお二人さん。さっきまで振り回されていた俺としちゃそこそこ憔悴しきっているのでこれくらいでいい。
「雨宮のパートナーは?」
「侑奈なら後輩と話に行くって出て行きましたよ」
「そうか。いやあとで会った時に私から話があると伝えといてくれ」
「了解です」
「それじゃこれで。何しろ楽しませないといけないからね」
そんな言葉を残し、去っていく会長達。嫌味ではないのだろうが嫌味としか捉えられない言い方。しかし爽やか系塩顔イケメンというのは微笑んだだけでも何でも許せる状態にさせちゃうバフ効果持ち。だからそこまで嫌に思えない。
美人な彼女さんは羨ましいけどね。
「あれ? 今会長いた?」
タイミングよくすれ違いで侑奈も戻ってきた。
「偶然あってな。なんか侑奈に話したいことあるから伝えてくれと」
「ふーん。なんだろね」
「来期の生徒会長の話とかじゃないのか?」
「そうかもね。じゃ次いこ、次!」
ぐいっと腕を引っ張られるまま次のクラスへ。
にしてもやっぱりこのイベントってどう楽しめばいいの?
宴も酣。閉幕のアナウンスも終え、クラスでのHRも早々に閉めるとやれ打ち上げどこ行くだの明日の代休どうするだのと先の楽しいイベントに胸を膨らませている。
俺はといえば普通に帰路についてる。だって打ち上げ嫌いだもん。侑奈からは「なんでこないのー!」と憤りをぶつけられたが人間好き嫌いあるんだから仕方ない。そのまま無視して今に至る。あとでメッセは送っとこ。
家から学校までの道のりはさほど遠くない。利点でもありながらアニ〇イトや同人誌ショップに寄れないというデメリットもあるので半ば複雑。本音は俺も駅前まで繰り出したいのだが今日はどこかしこも打ち上げで鉢合わせになることが予想される。明日の代休に足を伸ばしたほうが回避できそうだしそうしますかね。
明日の予定も決まったところで今日は澪霞に本格派ジャージャー麵でも作っていただきますかと気分高揚をしかけたところで自宅へ進む足を止めた。
目の前の十字路できょろきょろと周囲を見渡している女の子が立っている。見たとこ、中学生くらいの女の子。中学生とわかったのは身に纏っている制服。偶然だろうが俺の出身中学の物だ。
表情はどこか不安そうで今も携帯片手に俯いている。どうみても困っている状況なのは一目瞭然なんだが俺みたいな奴が声かけたら事案にならない? いや最近だと年齢関係なく外見で何もかも決められちゃうからね。でも今は一応制服だからおっけかな、おっけだろうか……。
とりあえず一旦すれ違ってみるか。一旦は様子見。そう、もしかしたら声をかけてくるかもしれないしね。
足を進め、彼女の横を通る。視線は一切合わせずにただ歩調を少しだけ落として、丁度いい具合にする。
丁度、彼女の真横を通った時だった。
「あっ……」
咄嗟に声が出てしまい、一瞬足を止めかける。
一秒、二秒……。あまりに待ちすぎると流石に怪しまれるので偶然声が聞こえた態で顔を少しだけ彼女の方に向ける。だが俯いたままでこちらに合わせようとはしない。
再び歩き始める。後味悪いのだがそもそも俺が助ける義理なんてないからいい。助けを求められたらその手を掴もうくらいにしか思ってなかったし。
距離がどんどんと遠のいていく。違和感というかすっきりしない。どこか詰まったようでもやもやする気持ち悪さが広がっていく。ああ、もう何でこうなったんだが。
これを解消する方法は一つしかない。
踵を返し、先程の十字路に戻っていく。まだ彼女は立ち尽くしており、おどおどしている様子にもなっていた。よし、軽く深呼吸して……うん、大丈夫かな。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけると彼女はピクリと肩を震わせながらも顔を上げてくれた。
……うわぁ、これは中々可愛い。侑奈や刹菜さんとか顔面補正いらなそうな女の子を何人も見てるけどそのグループに入れそうな整った顔立ち。だがその表情は困惑していると見て取れる。
「は、はい。大丈夫……じゃないです」
「大丈夫じゃないんだ……」
「だいじょばないです……」
うん、だいじょばないね。
「一応お話訊いてもいいですか?」
「わたし……志閃高校に行きたいんですがその道がわからなくて」
「携帯のマップアプリは開けてる?」
「開いてるのですがよくわからないんで……」
「見てもいい?」
こくりと彼女が頷いて携帯をこちらに見してきた。まあ見る必要なんかないんだけどね。あとこの子の検索している所、違う高校だな、これ。
「よかったら高校まで送りましょうか? まあ見ての通り志閃出身なんで」
「ほんとですか!?」
彼女の表情に生気が戻り、安堵している様でこっちも楽になったよ、ほんと。
一度戻ると侑奈達とエンカウントしそうだが放置できないしね。
「校門前までで大丈夫?」
「はい! ありがとうございます!」
「全然大丈夫だよ。あ、えーと」
「あ、わたし」
この時俺は彼女の名前なんて訊くつもりはなかった。つい呼び名がわからないからそんなことを口にしてしまっただけで彼女もそこに何かしらの意図があったとは思っていない。
だから偶然だった。神様が起こしたであろうほんの些細な出来事の一つ。
「花珂佳美っていいます。よろしくお願いします」
それでも彼女の笑った顔に既視感を覚えたのだけは確かな事実だった。
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