第4話大好きでした、ずっと 4
これが若さか……。
某有名台詞を思いながら開幕式でウェイウェイ騒ぎまくる学生達を見た感想である。同じ年代とはいえ、もう俺にはここまではしゃげる体力も活力もない。
「それじゃ男子諸君! よろしく頼むよー!」
侑奈の言葉を封切りに調理班である男子共が慌ただしくなる。
タピオカの作り方は至ってシンプル。事前に水に浸しておいたタピオカに適当なジュースやかき氷のシロップでそれっぽくテイストするだけ。味は保証しないのでただ入れるだけのミルクティーが一番おすすめ、定番だし。
一方、女の子はというと接客、受付とこちらもこちらで忙しない様。一部顔面偏差値が高そうなイケメンが混じっており、来客の女の子達と仲良く談笑。そんな格差ある役割分担で不快感を抱かない者がいないはずもない。調理班の男子は悪意混じりな視線をぶつける。もちろん当の本人は痛くも痒くもないのだが。
「蒼ー。それ作っといて」
「予備ならかなり作ってあるけど」
「違う違う。友達が序盤で来るから作り立てのにしたいの。あとちょっとオリジナルティを」
「バレないようにしてくれな。うるせえのが一人や二人はいるだろうから」
誰かを指して言った訳ではないがそういう告げ口をするのはいるもんだ。そりゃリア充共が楽しそうにしてる所なんて面白くないだろう。妬み恨み、そういう系の感情をころっと一転させてしまうと楽しい空間なんて簡単に壊せちまう。
そうなったときに責任を問わされるのはクラス委員長かつ文化祭実行委員でもある侑奈の他ならない。
「へーき、へーき。蒼が上手く処理してくれれば」
「俺が隠したところで教室で飲むなら人目に付くだろ。テイクアウトにしてもってもらえ」
「ちぇ。頭でっかち」
「クラス委員長様がズルしようとするな」
「たまにはいーじゃん」
と、唇を尖らせながら口にする。
俺と付き合い始めてからか、どうも小賢しいことを思いつくようになってしまった。もちろん俺にはそこまでの裁量はないので影響を受けたとかではない。俺のはずる賢くもない浅知恵である。
「それじゃ最初のお客さん、通しまーす」
受付の掛け声と共にぞろぞろと教室に入ってくるお客、というよりかは他クラスの連中が殆ど。そりゃ女子高生三大神器のタピオカはまず欲しい、是非欲しいという声が上がると考えた今回の出し物。
ものの数分であっという間に教室内のテーブルは満席。ついでは外の行列も他クラスまで伸びてしまっている。
「ごめん。男子で何人かの外の列整備回せない?」
「あ、じゃあ俺行くわ」
「ごめん。現金での受付大丈夫だっけ?」
「あ、それ駄目。その場合は下の引き換え券場に」
最初の余裕は消え、仕事モードへの切り替えがお早いこと。バイトでももう少し気楽にしているはずだろう、彼等は。
「雨宮、作り置き無くなりそう。急いで作って」
「ミルクティならもうできるぞ」
「ブルーハワイとグアバも追加で」
……グアバなんてメニューにあった?
「はい、交代ねー」
十二時半。ようやくひと段落というところで交代の指示が入る。
正直閉会まで放送室辺りで時間潰していたいのだがそうも言ってられない。
「あーおいっ」
ニコニコスマイルな彼女さんが隣にいるからね。何それ、女児アニメの変身ヒロイン並みに笑顔眩しい。同時に俺を休ませてくれない現実がそこにあるというのを痛感させてくれます……うん、知ってた。
「どこ……行きたいの……?」
「何でテンション低めなのよ。せっかくなんだからぱーっといこうよ、ぱーっと」
「疲れてんだよ、察してくれ」
「私の方が蒼の数十倍は大変だったんだからねっ。大体彼氏のくせにあそこまで放置することないじゃん」
「侑奈なら適当なナンパくらいあしらえると思ってたんだよ」
改めて考えるが五日市侑奈はかなりの美少女だ。今も文化祭名物クラスTシャツの袖を肩までまくり、白い肌が露出している。身体のラインも制服を着用している時に比べるとわかりやすいし、何より女の子って変にシャツを引っ張ったり、上手くアレンジしようとめくったりするので年頃の男の子は中々大変なんです。
そんな侑奈さんですがナンパされてました。目を離した隙に他高の生徒を思われる男子三人組に「めっちゃ可愛いし雰囲気なんかエロいね」「てかどこ住み? アプリやってる?」としつこく迫られていた。上手くかわしていたが向こうも折れる様子ないのでつかさず彼氏ムーブを醸し出そうと普段は絶対にみんなの前では呼ばないが名前で呼んだ。
助け船が来たのでつかさず逃げるようにその場から去っていたが今度は俺の元に来て、「ごめんね、仕事中に。蒼のおかげで助かったよ」と連中とは天と地の差もある満面の笑み。これには向こうは楽しくないだろうと舌打ち&こっちをガン見。内心かなりビビったぜ……。
「さてどこからいこっか」
「順番に回ってけばいいだろ。刹菜さんのところと有菜のところは忘れないようにしてくれれば」
「却下」
秒で俺の提案は跳ねのけられ、そのまま手を引っ張ると教室を飛び出して行く。
はいはい。皆さんどうもどうも。五日市侑奈の彼氏こと雨宮蒼です。仲良くして、そう仲良くしよ。怖い視線をぶつけても何にもならないよ? ね?
「えーとね、まずは琴美ん所の焼きそばとそれから風華の縁日も」
「はいはい。どこへなりとも」
面倒に感じる隙すらも与えないのがこの子の美徳かもしれない。その分体力持ってかれますけど。
そのまましばし歩いていき、端のクラスまで行く。教室の前にはでっかく『えんにちや』と平仮名で書かれたボードが立てかけられており、列もそこそこできている。
が、何故か侑奈は列に並ばず、受付へと向かう。
「おい。最後尾は」
「ふっふっふ。こういうのは株主優待があってだね」
「は?」
何のことだと呑み込めない顔をしていると受付にいる女子と侑奈が会話を始め、その後何故か優先的に中に通される。え? なにこれ? ほんとに株主優待券でも使ったの? というよりどちらかというとクラス優待か?
「何したんだ」
「ん? ここ五月から事前に並ばずに通してもらえるように話を通してあるんだ。タピオカ奢る代わりにね」
とんだ密約だった。バレたらさっきのオリジナルメニューよりえらい騒ぎになるというのにあっけらかんとしつつもちょっといたずらっぽく笑う普段と違う一面。ひっそり心の中に閉まっておこう。
次に向かったのは一年生フロア。侑奈の後輩やらも回ったが当然有菜の教室をあえて避けていたのだが、
「あっおっいくーんっ! みーっけた」
「うわぁ……」
「ガチ引きしないでもらえますか?」
謎のハイテンションでみつかった俺はかなり引いていた。
「こんにちは、有菜さん。ではさようなら」
「いやいやいや。蒼君はわたしに会いに来てくれたんですから。それに侑奈先輩ともあろう人がこんな子供じみた後輩と彼氏が話していても気にしませんよね?」
挑発だ。直感的にそう捉えた俺はすぐに離れようとしたが左腕をぎゅっと掴まれる。もちろん有菜なのだがそれに対抗するように今度は右腕を侑奈が掴む。
「有菜さん、離れてくれないかしら?」
「あらー? それならあなたのほうから離れてくれませんかね?」
ぐいぐい引っ張りながら火花散らしていく二人なのだがその合間にいる俺はもう見世物感覚。どうぞ見てってくれ。これがラノベ主人公もどきだ。
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