最終章 神様、君の初恋を僕に下さい。(上)

第1話 大好きでした、ずっと。


 ねぇ神様って知ってる?


 この世界、いや宇宙のことわりすらも超える未知の存在。


 何者なんだろうね? 誰なんだろうね?


 私達がどんなに研究しても、そこにたどり着くことはない。


 だって神様は神様だから。君の傍にいて傍にいない。


 何それって思うよね。でも事実、神様はそういう存在。


 そんな神様に仕える者がいるって知ってた?


 神様の弟子? ううん、は神様になろうとする者。


 神様であって神様じゃない。でもその力は協力で過去すらも変えてしまう。


 存在しない者を存在させること。そんなことも可能だよ。


 だからね私は今ここにいる。そう、ここにいる。


 でもそれだけ。どうして私が存在できるようになったかまではわからない。


 記憶に鍵がかかったかのように思い出そうとすると頭が痛い。


 でも思い出せるということはそこには確かに記憶があるということ。


 本当に誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰?……誰?




 ところで私は一体誰なんでしょうか?



 × × ×



「またあんたと同じクラスだし、担任も香川だしほんと最悪」

「左様ですか、へいへい」


 五日市侑奈にそう返すと向こうも不機嫌そうにそっぽを向いて、校内掲示板から離れていく。

 平凡な一年がまた始まる。雨宮蒼という男の人生はいつもそうだ。

 趣味がアニメ・ラノベなどのエンターテイエント作品。ギャルゲやエロゲも嗜む程度には。クワガタの飼育も好きだな。個人的にはパラワンオオヒラタクワガタのブリードに挑戦してみたいこの頃。

 彼女はいない。当たり前だが年齢=彼女いない歴。

 好きな人は。ああ、思い出せないんだ。誰のことを好きだったような気もするけど誰か覚えていない。いやそもそも好きという感情なのかどうかすらもあやふやだ。何しろ俺は彼女がいたことないのだから。


「雨宮」

「ん? あー魔棟お久」

「お久じゃない。二週間ぶりだ。それよりこないだお前につれてかれたオフ会、あれはなんだ?」

「なんだと言われてもオフ会だが」

「あんな美人な人までいるとは聞いてないぞ」


 脳内検索で美人というキーワードをもとに該当人物を検索するにはそう時間かからない。何しろヲタクの集まりというだけで女の子がいるのは貴重、いやジャンルにもよるけど。

 とはいえ目の前にいたその可愛い女の子がお前が好きなソシャゲをキャラデザを担当しているイラストレーターだとは予想もつかないだろう。俺も歌恋かれんに聞かされるまでは知らんかったしね。


「で、それがどうかしたんだ?」

「いやその……何だ」

「SNSのアカウント交換くらいはしたんだから個人的に連絡先を教えろとかはなしな」


 その言葉はどうやら彼の心にクリーンヒットのようで顔が悲壮感に満ちたものに変わる。百鬼夜行もなんのその。そんなに好きになっちゃったの、君。


「頼む! できることであれば何でもしてやる!」

「SNSにもメッセ機能あるんだからそれ使えばいいだろうが!」


 朝から昇降口で騒ぐヲタク二人、何と見苦しい。

 しかしながらこんな奴でもこの志閃での数少ない友人の一人なのだから貴重にしないとグループワーク等で痛い目を見る。


「なぁ、さっきそこの廊下で雷木先輩見たぜ」

「マジで? あの人三年だから二年側の昇降口に来ねぇだろ」

「なんか一年生に妹さんが入ってきたから様子見に来てたんだと」

「雷木先輩の妹って可愛い系か美人系の二択じゃん! 早く行くぞ!」


 男子共の騒音が勢いを増す。

 男はチョロい。憧れの先輩の顔を拝むだけで満足しちゃう。まあそれは童貞の言い訳みたいなもので、そこから一歩踏み出した奴が陽キャ。つまり指をくわえてるだけの奴らは陰キャ。

 俺もカテゴリー上ではその一部に入る。うん、入る。

 そう思いつつも人混みをかき分けていこうとするがどうしてか人混みが段々とこちらに近付いている気する。振り向くな、うん振り向くな。


「あーおいっ。おはよ」

「……おはようございます」

「出会い頭にそこまで嫌そうな顔をされるのって中々失礼だと思わない?」

「ソウデスネ」


 今俺の心が鋼鉄並に頑丈ならきっと大丈夫だったと思いますよ。なんなら妬み嫉み羨ましさ憎らしさ混じり合った視線セットを販売中です、ぜひどうぞ。


「今日ってさ、集まる?」

「集まるんじゃないですか。あいつら暇だし。でも五日市辺りがまたうるさくしますよ」

「彼女連れ込んだのって蒼じゃん」

「言いがかりなんだよなぁ」


 用事ないっていうのに全然信じなくてそのままいつもの打ち合わせ場所まで連行。以来、五日市も打ち合わせには参加するようになったのだがヲタク談義に話がついていけるわけにもいかず、携帯を弄るか、貸した漫画を読んでるくらいしか見たことがない。つかほぼ毎回参加してるけど他に友達いないの?


「ま、何でもいいや。今日は昨日の」

「あー授業始まるんでまたあとでもいいですか? 色々と話が長くなると大変そうなんで」

「ちぇ。じゃあメッセ見といてね」


 校則違反もなんのその。

 昨日の話をそこまで続ける意味があるのだろうか……いやその前に。


 そもそも昨日の話ってなんだ?





「でだ。二年生になってからは後輩もできることで先輩らしく」


 頭の中には教師の声は届かず、ぼーっと、ただぼーっと。

 いつもならラノベをこっそり読んだりしてるし、最近だとユマロマと一緒に出す合同誌のプロットでも考えているところ。

 最近……最近。

 どうもしっくりこない。今年の夏コミは五月だから原稿に着手することはまちがってはいない。というか遅すぎるくらいだ。当選確定してからすぐにやっとくのだがどうも春休みが忙しなかった。

 ……春休み。

 なんだろう、この所々ぽっかり空いた感覚は。

 空虚で一面真っ暗。だから言葉を紡いでも虚無しか感じられない。

 でもそんなはずはない。俺の春休みは確かに存在した。

 証拠に手帳にはオフ会の予定くらいしかないが確かに刻まれている。もっと俺に予定があれば色々と記憶になるイベントがあったのだろうがなにせ友達が少ない。

 ……いやそれもなんか変だ。五日市や魔棟とか。話す機会は殆どないが北条五月や刹菜さんの後輩の有菜とか。

 あとは……何かいたはずなんだけど。有菜の友達だっけ?

 それはないか。有菜が友達を紹介なんてするはずがないしな。


「それじゃこれから一年間、二年生として頑張っていこう。HR終わり!」








 

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