第11話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。11
彼女の顔を見ながら不快感を出す一方で入口の売店で購入したであろうサーターアンダギーを頬張るリュナさん。ここ飲食禁止ですけど?
「やかましいなぁ、ほいっとな……あーごっそさん。やっぱ日本の料理は上手いわぁ」
「いつから俺らについてきてたんですか?」
「ずっとや。自分が想像しているよりもウチは恐ろしい奴やでぇ」
知ってます。ファーストコンタクトから今に至るまで警戒心が高まってますから。
「それで? 用件は?」
「いやなー、自分があの子の助かる道ないかなっておもろいもん想像してるからちょいとなぁ」
「心を折るならさっさとしてください。ないんでしょ、間逃れる方法なんて」
「……ほんまにそう思うか?」
その言葉に反応した俺は彼女の方に顔をやる。その様子にけらけらとからかうように笑った。
「そんな必死にならんといてや。あるとはまだ言うてへんのに」
「マジで用件ないなら消えてください。言っておきますが俺は」
「守るつもりでいる、って考えてるなら辞めときや。ウチらと人間じゃ話にならん」
発した冷たい声に合わせた表情に思わず気圧される。ただの会話なのに冷や汗がじわじわと流れる。口が上手く動かないのもそのせいか。
「可愛いなぁ。可愛い可愛い。でも神をなめちゃあかんよ、自分」
「なめて……ない……」
「ま、ええか」
ふぅ。軽く息を吐くと少しは冷静に戻った。発言一つが命取りと心得よう。
「教えて頂けませんか、彼女を消滅から救う方法」
「ええけど聞いて後悔せんか?」
「……後悔するなら俺はとっくに投げ出してますよ」
「それもそうやな」
と、リュナさんは俺の耳元に顔を近づけると告げた。
ゆっくりと、ただし確実に聞き間違いのない言葉で。
「―――」
「っ!」
× × ×
ホテルの部屋の感想は一般的なビジネスホテルといったところ。この時間は大浴場に皆向かうが面倒なので部屋のバスルームで済ます。
あれからは特に何もない。リュナさんは「ほなまた」と消え、神様と俺はぎこちない空気で鍾乳洞を観察し、そのまま別れて今に至る。バスで五日市が「どこ行ってたのよ」と追及の矛が止まらなかったのが面倒だったけど。
ピンポーン。
「誰?」
思わず声を上げてしまう。いや一人の時だと癖でつい口に出してまう。ましてやこういうホテルで一人だと余計に感じる。
ドアスコープからのぞくと見覚えのある顔があるのでひとまず用件を訊いてみる。
「何の用だ? 飯ならコンビニで」
「私もご飯は部屋で済ますから入れてよ。部屋だと色々と面倒なの」
「その面倒がこっちにやってくる可能性は?」
「ないとは言い切れないけどあんたの部屋なら誰もいないでしょ」
「……まあ」
そう言うと何も言わず、室内に入ってくる五日市。別にいいけどさ。
けど迷わずベッドに飛び込むのは辞めてくれ。そしてご飯そこで食うなよ。
「雨宮の部屋ってまあまあ広いのね」
「元々ツインの部屋だからな。ベッドも二つあるし」
「ふーん」
何かを観察するように部屋を見渡しているが間違っても夜は誰も入れないぞ。
ラブコメイベント発生を喜ぶよりもやらないといけない事が盛りだくさんだからな。今は食事を終えてる神様も終わり次第、ホテル近くの砂浜で会う予定だし。
「沖縄のコンビニって凄いのね。おでんのタネの一つでソーキそばがあったんだよ」
「あー俺も買った。カップ麺にしようか悩んだけどせっかくだしね」
「だよね。んー美味しい」
「ベッドの上で食うな。そこの机で食べろ」
「はーい」
聞き分けがいいようで素直に移動してくれる。初めからそうしてくれ。
「そういえばさ」
「何だ?」
「今日、鹿米さんと何話してたの?」
「何話してたって?」
「鍾乳洞の時二人でいるところを見たって一華が言ってた」
「世間話程度。あと趣味が似てるからな」
「似てるってあの子もヲタク?」
「そ」
中身は生粋のヲタクですよ、そりゃ。神様がヲタクってラノベでありそうな題材だし、一度書いてみたら面白いかもしれない。それこそ次のコミ〇で出すのもありだな。
「私もヲタクになれば少しは話に混ざれるのかなー」
「辞めとけ。五日市までヲタクになったら俺の知り合い全員ヲタクだぞ」
「そんな訳……あーうん。大体ヲタクだね」
「だろ?」
神様、刹菜さん、佳美さんも俺と同じこちら側の人間。その上を行くのがハイスペック系でありながら声優ガチヲタ説あるリズと二次元展開を夢見る男、ユマロマとリア充とヲタクの二面相を持つミステリアス系nichさん。改めて俺らのグループってよくもまあここまで仲良くなったもんだ。
「でも最近はアニメもヲタクっぽいやつばっかじゃないじゃん」
「前から一般層向けはあったけどな。何なら今度見に行くか?」
「……雨宮から誘うなんて珍し」
きょとんと驚いた顔をしてくれたのでこっちも同じような顔になる。
言われてみれば確かに俺が誘うなんてそれこそいつもの三人組くらいだったし。
でもきっかけというのはこういう小さい所からだからな。
「ま、そういう時もあるってことなんだよ」
「じゃ楽しみにしてるね」
えへっと唇を綻ばせた五日市。きっかけが上手くヒットしてくれれば彼女がこちら側に来るのもそう遠い日ではないだろう。
今言うべきだろうな。
「あのさ、明日の夜ってお前暇か?」
「明日の夜? いや一応一華と軽くトーク予定だけど」
「ああ、じゃあ変えるか」
「いや行くよ。雨宮が私呼び出すなんて相当な事だし」
「察してくれて助かるよ。あんまり深くは考えないでおいてくれると嬉しいんだけど」
「そういう言い方するってことは深く考えないといけなかったんでしょ」
鋭いご考察で。おかげで話は早く済みそうだ。
「一応なんだけどその……例の件の返事……用意したから」
「……ふーん」
「なんだよその素っ気ない反応」
「いや。普通にクリスマスくらいまで待つかなーって思ってたから意外なだけ。でもそれ言うってことは他の二人には」
「もう言ってある」
「……じゃあ私が望まない結果もあり得るんだ」
「それをここで言うのは野暮だろ。だから明日の夜全部話すよ」
「ん。わかった」
言うと五日市は立ち上がるとそのまま部屋から出て行こうと扉の方へ歩いていく。
「じゃあまた明日」
「また明日な」
別れの挨拶を互いに交わし、五日市は部屋を後にした。
先程まで五日市がごろごろしていたベッドに飛び込んだ。こっちのベッドを選んだのに深い意味はないけど強いて言うなら何となくだ。
時刻はもうすぐ八時。そろそろ向かおう。
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