第10話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。10



 午後十五時、沖縄にある鍾乳洞の観光名所に訪れている志閃修学旅行生一同。

 ちなみに空港着いてからのダイジェストは簡略すると昼食にソーキそば。その後は旧海軍本部を観光。ここでの感想は野暮な事しか言えない気しかしないのでノーコメント……。

 さてここではさっそくミッションとしてやることがある。

 一応これはクラス単位の行事なのだがあくまで全クラス同じ場所、同じ時間で観光だと一般観光客に迷惑がかかるという学校側の判断により全六クラスの内、三クラスずつでそれぞれ見る観光名所を交代しており、うちのクラスは偶然だが碧のクラスと合同だった。

 周囲も他クラス同士で適当にグループを作っている奴らもいるので俺も自分のクラスから離れ、碧を探すとすぐに入口の看板を見つめる彼女が目に入る。


「あ、いた」

「ん? ああ、蒼か」

「碧は誰かと回る予定はあるのか?」

「ううん。友達は別の子と回っちゃうらしいから一人でゆっくり見ようかなと。こういう神秘的な所には興味あるし」


 うん、君の中にいる存在はもっと神秘的ですけどね。

 だがそれならいい。


「じゃあ一緒に回らねえか? 少し話したい事もあるし」

「そのお誘いなら喜んで」


 楽しそうにけらけらと笑った。まるで俺が来る事を知っていたようだ。

 ま、神様のこういう所は今に始まったのではない。さっそく俺達は中の散策に入った。

 観光名所だからある程度整備されているがほぼ自然そのもので、天井からたれる鍾乳石が見事なアートを作り出しており、日本最大と太鼓判押すのも納得がいく。おまけに今はライトアップもしており、幻想的な世界を作り出しているからあちこちの生徒達から写メを撮るシャッター音が響く。

 少し歩いた所でさっそく俺の方から切りだした。


「碧の方に用事あるんだけどいいか?」

「一応修学旅行始めてからは碧のつもりなんだけどね。それで何かな?」


 確かに神様トーンで話してないしな。まあ俺的にはこっちの方が話しやすいし、好みな分そこまで気を張る必要ないからいいんだけど。


「碧って何か日記とかつけてなかったか? ブログでもいい」

「ブログかぁ。そういえば何かそれっぽいサイトのログインIDとパスワードがメモ帳にあったかも」

「それ見せてくれないか。そこがお前に頼まれた依頼の突破口になるかもしれない」

「……なるほど。まあブログをやっていると突き止めたのは流石だね」


 突き止めたというよりも情報収集のおかげだ。先程碧が言ってたお友達さんから彼女に困っている事はないか? と訊いただけ。まあ警戒心かなりあったが俺一人ではなくて、同クラスである島張さんに同行してもらったおかげでどうにか心を少しは開いてもらったし、最近俺と碧が一緒にいる所を頻繁に目撃されていたのもあるからだろう。おかげでを生みつつも何とか聞けたのだ。


「えーと……ああこれだね。あとで蒼宛てにURL送っとく」

「頼む。それとまだいくつかあるんだがいいか?」

「ぐいぐい来るねぇ。こういうのは夜に聞いた方がよかったんじゃないの?」

「夜は夜で未確認生命体の来週が予測されるからな」

「確認はしてるでしょ」


 やかましいとは思いつつも次の質問へ移る。

 鍾乳洞のライトアップも進んでいくごとに演出が変わっていく。時折、頭上から落ちる水滴が今もこの鍾乳洞が生きていると実感させ、何十万年前からあったと聞かされてもピンとは来ない。けれど隣にいる女の子の中身は何十万、何百万だろうと消えることはない。そう、それこそ禁断の果実に手を伸ばさなければ。


「碧の家族ってどうなんだ?」

「随分とざっくりした質問だね。まあ普通だよ。喧嘩もしてないし、パパもママも仲がいいし。弟も君と妹さんと仲良しみたいだし」

「OK、その件に関しては夜に取り調べといこうか」


 いやなーに、ちょっとお話を伺うだけですから? ね?

 回答次第では地獄を見ることになるかもしれないがね。いや俺はシスコンなんかじゃないぞ? ただいつもは兄といる所を見られたくないツンデレが家では「一緒にアニメ見よ」と誘ってきたり、昨日もついに待望の人気ラノベが劇場版公開したので特典目当てで一緒に行って来たら、「やばいってえええええええええ! もう辛いよおおおおおおおお!」と大泣き。そうだよな、あの表現はずるいだろ……。

 と、溺愛はしてないが彼氏がいたらいたで何か癪に触るのでお話だけでも聞きたいだけなんだよ、俺は。

 さて妹に対する印象紹介はここまでにして話に戻ろう。


「まあ普通か」

「何、家族的な問題の心配とかしてくれるの?」

「念の為だ。文化祭のあの日に何があったのかを知る為に。俺の調査では少なくとも友人や学校での悩みは少なかったようだからな。というか肝心な事を聞いてないんだが碧、いや神様は悩みがあったことが入れ替わった原因だと?」

「ですね。雨さんの言う通りです」


 碧から神様へギアチェンジした喋り方になった。こっちはまだしっくりはこないなぁ。佳美さん=神様だったもん。


「夏休みに行った青森の村、そこの小学校の先生が話してくれた事を覚えてますか?」

「ああ、心替えだっけ?」


 まだ三か月くらい前なのにすっかり懐かしく思えてきた。病弱な男の子が私利私欲に走った暴徒達から神の使いであった女の子と入れ替わる、ハッピーエンドとは言い難いお話だ。


「実は今回どうしても修学旅行に行きたかったんです。当初の予定ではサボってついてくるつもりだったんですけどね」

「サボるって何を?」

「学校を、です。初めは佳美さんの身体で行く予定だったので」

「すまん、話が見えないんだけど」


 何の事だと混乱する俺だがそこはどうやら説明しよう! タイムが始まるようだ。


「私の当初の目的は私自身を佳美さんの身体から離脱させる事でした。しかし再び心替えが起きた。その原因はきっと神使である私と碧さんに何らかの接点があると考えてたのです」

「それを探らせようとしていた、と」


 神様は縦に頷いた。だがそもそも接点なんかなくても入れ替わりは出来るのでは? と考えられる。現に青森の話がそうだったわけだし。


「あ、もしかして接点なくてもいけると思ってます?」

「ご名答。で、それについての回答も準備してあるのか?」

「はい。恐らくですがあの昔話に出てた二人も接点はあり、互いに生き延びる、助け合うという気持ちが強かった、それも特定の相手だけを。これも十分な接点と捉えていいのかなと」

「ふーん、まあ思いあってることでもいいなら十分に可能性は広がるな」

「でもかなり思わないといけないってことですよ」


 となると鹿米碧と神様。全く類似点がない二人の共通する"何か"が入れ替わりのトリガーという事か。


「それで話を戻すのですが今回どうしても行きたかった理由は青森の職員さんから電話があったんです」

「電話?」

「ええ。何でも最南端の村にある昔話で例の神使のその後についてがわかった、と」

「なるほど。そういう事か」

「……ま、今となっては手遅れですけどね」


 そう寂しそうに言う神様。水を差すような事を言わないようにしていたがお前から言うのはずるいだろ。悄然とした空気に切り替わって会話は途切れた。


「あ、お手洗い見えてきたんで少し待っててくださいね」


 足早に女子トイレの方へ消えていく神様を見届け、俺は近くのベンチに腰を下ろした。

 考えから逃げてたと言えばそうだ。でも信じられねえんだよ、ずっと。

 リュナさんが話してくれてた時から……。


「ふーん、全然駄目なんか」


 そう、駄目……駄目?


「何死んだような面してんねん。せっかくの南国ちゅーのに。もっと夏っぽく笑えや」

「……今は秋ですよ、リュナさん」


 

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