第9話蒼い星が好きな君なら言っている意味がわかるだろう。9
「……そか」
「すいません。いきなりこんな事」
「ううん。文化祭の時からなんとなくこのヒロイン戦争はそろそろ終止符打つなぁって思ってたから」
「刹菜さんが参加したのって最近でしょ」
「それでももう終わりだよ」
「……はい」
「でも少し早く言ってほしかったな。私にも心の準備ってもんがあるし」
「すいません。でも元々決めてたんです。文化祭の時には」
「決めてたけど口にするのが怖かった、ってやつ?」
「.....はい」
「純粋だなぁ。本当何でそこまでラノベ主人公なんやら」
「俺をラノベ主人公にしたのはあなたですよ」
「そうかもね。確かにあの頃の私と君は間違いなく青春ラブコメしてたし」
「はい。あれからの成長は全く見られませんけど」
「違うよ……私を救った。投げやりで何もかも言う通りにしていれば君を助けられると勘違いしていた哀れなヒロインを救い上げてくれた主人公様」
「自分でヒロインって言っちゃう辺りが刹菜さんですね」
「……えへへ。じゃあそろそろかな」
「はい」
「……教えて。蒼の答え」
「刹菜さん―――」
× × ×
人生でこの場所に来るのは指で数える程。
平日の朝だというのにスーツ姿のサラリーマンが忙しない様でキャリーを引いてたり、これから旅行だという家族が楽しそうにガイドブックを読んでいたり。
国内最大規模と言われる日本からのスタート地点……まあ早い話が某空港にいるわけだ。
「よし! これから手荷物検査でその後はすぐに飛行機に乗るからな。時間厳守だからくれぐれも勝手な行動は慎めよ」
学年主任の声が響き、大名行列ぞろぞろと手荷物検査のゲートに入っていく。
今回の修学旅行先は日本の最南端、沖縄、そう、O・KI・NA・WAである。
というのも志閃の修学旅行は選択制で一つは海外、オーストラリア。もう一つは国内、沖縄。人気が高いのはラリアだが秋の沖縄も捨てがたい。なんたってオキナワマルバネクワガタのシーズンだからな。採集禁止だけど。
と、沖縄のやんばる特有のクワガタ採集を目的にしている俺なのだがそんな自由は修学旅行では許されない。なので数年後にリトライ予定にするとして……。
「おし、じゃあ飛行機乗るぞ。席間違えんじゃねえぞー」
そう、これである。最初から問題発生なのだ。
本来クラス単位で席順は決められていて、他クラスの人間と隣なんて以ての外。ましてや俺みたいなくじ運無い奴は大体余った席でスチュワーデスと共にするある意味美味しいイベントになるはずなんだが何故か中央列の真ん中。窓際がよかったのに……。
そしてその座席番号の元には既に左右通路側に座っている生徒がいる。もちろん誰が座ってるかは事前に把握しており、
「あ、来た来た。遅いわよ,蒼」
「蒼、おっそいよー。僕待ちくたびれちゃった」
馬鹿なの? 何でこんなミラクル起きてんの?
五日市は五百歩譲っていいとしよう。で、どうしてそこに君がいるのかな。ミス・ゴット。
「ん? どうして僕がここにいるのかは偶然にもこの席だけ空いてたから僕が希望したんだよ。一人になりたかったし。そしたら蒼が隣だって五日市さんが教えてくれてさ」
「……あんた、この人とどういう関係なのかを沖縄に着くまでじっくり教えてほしいんだけど」
「何もない。ナニモシラナイ」
「うるさい、とっとと座りなさい」
理不尽である。
「ふーん。ラーメンが好きで偶然知り合った、と」
「だからラーメン屋に一緒にいたんだって」
「でも私との約束破った。毎週月水金は私と遊ぶ約束」
「してねぇよ」
そんな要望がまかり通ったら俺が破産してしまう。
「にしても面白そうなヒロイン戦争してるんだねぇ、蒼は」
「君は黙っててくれないかな?」
知ってるよね、大方。
目の前にある機内モニターは現在の位置が大阪であることを示している。まだ一時間くらいだが早いものだ、飛行機は。
時刻は午前十一時。着く頃には遅いお昼なのだが今日はクラス単位で鍾乳洞やら旧海軍本部等の社会科見学。夜のホテルからが学生による修学旅行の本領といったところだろうな。
あ、ちなみに一人部屋です。俺が選ぶと皆文句言わないから助かったぜ。
「あ、ねえねえ」
「何だ?」
碧の方に顔を向けると向こうもこちらに顔を近づけてくる。そこまで至近距離にならなくていいんだけど。つか後ろからの視線が痛いし。
「自由時間どうする予定?」
「あーそれは」
「あら残念。蒼は私と過ごす予定なの」
会話に参加した五日市が高みの見物と言わんばかりにふふっと得意げな笑みを浮かべる。僕のフリータイムもくださいな。クワガタ取りに行きたいよ。
「えー。二日目も三日目もですか?」
「そ。残念でした」
不服そうに五日市を睨みつける碧だが一応最初にそのスケジュールで納得してしまってるので仕方ない。どこに行くかも聞かされてないけど。
粘っても無理だと判断したのか、碧はイヤホンを耳に付けて瞳を閉じた。五日市の性格を理解している分、諦めも早いのだろう……と、思ったところで俺の手に何かを握らせてきた。顔をやるが気付いていないフリをしている。
その手を開くと折りたたまれた紙があった。すぐに開いて確認したいところだが横に五日市もいるのでひとまずジャケットのポケットにしまっとく。
「ねぇ蒼。今日の夜なんだけどー」
「あーうん。夜くらいはのんびりさせて」
「何でよ」
「いや色々と考える事あんだって」
「なら尚更相談相手がいたほうがいいと思うけど?」
的確についてくるなぁ、こいつ。
その通りといえばその通りかもしれないがその考える事に君も含まれてるから話せないんだって。ついでに言うなら右横の奴もだ。
そう、この旅行ではかなり大きな目的がある。
一つは雨宮蒼が作る未来について。
神様とある約束をしていて、俺はそれを叶えた。その報酬として世界を変える権利をもらっている。しかしその権利には有効期限があり、この修学旅行までには決めてくれと忠告を受けている。
実を言うとまだ明確な答えは出来ていない。しかしイメージは出来つつあるので少なくとも明日の夜、それまでには鹿米碧、現在の神様に告白する。
二つ、鹿米碧について。
修学旅行に入る前から俺はこそこそと彼女について調べ廻っていた。骨が折れた。いや本当に。流石に情報には限りあるし、何より碧は友達がそこまで多くなかった上に相談事をするタイプでもなかったので色々と伝手を借りる事になったよ、お陰でいくつ貸しを作ったやら……。
だがある程度はまとまった。だからこの旅行でその答えの最後のピースを見つけて、神様に報告。それでまた一つ終わりだ。
三つ、俺自身の事。
こればかりは本当に直近というかあの日以来考え、そして決意した。
北条さんが俺に告白したことがきっかけなんだが一応こんな俺でも好意を持ってくれている女の子がいる。それも推定だが三人。
花珂佳美、五日市侑奈、雷木刹菜。
この三人から一人を見出さないといけない。が、これに関してはさほど問題ではない。
よっぽどのことがなければ俺の答えが揺るぐことはもうないのだから。
以上の三点がこの修学旅行で与えられたミッションであり必ず遂行しなければならない。何しろこの修学旅行後、もうあの日常は戻らないかもしれないのだから。
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